宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 139, 2009

基調講演

現実となった新型インフルエンザパンデミック

川名 明彦

防衛医科大学校 内科学2 (感染症・呼吸器)

Emerging Pandemic Flu : 2009 Pandemic Influenza(H1N1)

Akihiro Kawana

National Defense Medical College, Department of Internal Medicine 2
Division of Infectious Disease and Pulmonary Medicine

 過去において人類は何度も新型インフルエンザの出現 とそれに伴う世界的大流行(パンデミック)を経験して いる。WHO(世界保健機関)の勧告に従いわが国を含む 各国は次のパンデミックに対する準備を進めてきた。次 のパンデミックを起こす新型ウイルスは,鳥のインフル エンザA/H5N1 に由来するウイルスの可能性が高いと考 えられ,また1918 年に発生したスペイン風邪並みの致死 率2% 程度のパンデミックが想定されていた。しかし 2009 年春,豚由来のA/H1N1 によるパンデミックが始まっ た。本ウイルスによるインフルエンザの臨床症状は,発熱, 咳嗽,咽頭痛等であり季節性インフルエンザのそれと類 似している。またその多くは予後良好である。しかし一 方では,基礎疾患(慢性呼吸器疾患,心疾患,腎疾患, 免疫抑制状態等)のあるヒトや,妊婦では重症化例も報 告されている。また稀ではあるが基礎疾患の無いヒトが 重症のウイルス性肺炎を起こしたとする報告もある。そ の致死率は0.5% 未満であり,予想よりは低いものの季節 性インフルエンザよりは高く楽観すべきではない。抗イ ンフルエンザウイルス薬であるオセルタミビルやザナミ ビルが有効とされる。ワクチンは国内生産及び輸入も含 めて現在準備中であるが,その数に限りがあることから 使用優先順位が検討されている。パブリックコメントの 結果も含めて優先順位案を紹介したい。感染経路は季節 性インフルエンザと同様飛沫が主と考えられるが,エア ロゾルの発生する手技を行う場合は配慮が必要とされる。 わが国においてもインフルエンザの本格的な流行が始ま り,夏季にも多くの患者が発生した。今後さらに流行の 規模が拡大することが予想され,早急に準備体制を整備 する必要がある。また,米国における重症例の供覧も含め, 臨床的な観点から今回のパンデミックについてまとめた い。