宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 136, 2009

宇宙基地医学研究会

5. 長期宇宙滞在に必要な体力トレーニング

大島 博1,水野 康1,佐藤 亮輔1,立花 正一1,川島 紫乃2

1宇宙航空研究開発機構
2株式会社 エイ・イー・エス

Astronaut Physical Fitness Training for Long Duration Human Space Flight

Hiroshi Ohshima1, Koh Mizuno1, Ryosuke Satoh1, Shoichi Tachibana1, Shino Kawashima2

1Japan Space Exploration Development Agency
2Advaned Engineerning Service

 [飛行前運動プログラム]
 ISS 長期宇宙滞在ミッションに必要な体力を獲得し,宇 宙飛行による筋力や有酸素性能力の低下に備えることを 目的として,打ち上げ1 年前から飛行前トレーニングを 計画する。生理対策担当者は,搭乗前に実施した体力デー タとミッション要求を勘案し,NASA の運動担当者(Astronaut Strength Conditioning and Rehabilitation Team,以下 ASCR team)と協議して個別の体力維持向上訓練プログラ ムを作成する。具体的には,有酸素運動(ランニングや 自転車運動)と抵抗運動(スミスマシーンやダンベル) を週3 回,1 日2 時間の運動プログラムを計画する。船外 活動を予定する宇宙飛行士には,ロッククライミング運 動や上肢の自転車こぎなど,上肢の筋力や筋持久力を向 上させる運動も積極的に取り入れる。
 [飛行中運動プログラム]
 飛行中の心肺機能・筋力・骨量を維持し,パフォーマ ンスを維持するために,有酸素運動(月・水・金曜日は トレッドミル,火・木・土曜日は自転車エルゴメータ) と抵抗運動(月曜から土曜日まで改良型抵抗運動機器) を基本に,1 日2 時間の体力トレーニングを計画する。飛 行初期は微小重力環境での運動に慣れること,中期は体 力の維持を図ること,後期は帰還後に備えてトレッドミ ル走行を多くするなど,飛行の時期や体調に合わせて運 動プログラム(種目,強度,時間)を適宜修正する。トレッ ドミルによるランニングの際には,肩と腰を保持するハー ネスとバンジーコードを用いて体重の60〜100% 相当の負 荷を加える。自転車エルゴメータは, 目標心拍数 (85%HRmax 以下)や自覚的運動強度(ボルグ指数の13(や やきつい))を指標に運動する。抵抗運動は,600 ポンド までの負荷トレーニングが可能な改良型抵抗運動機器を 用いて,体幹運動と四肢の運動を毎日3 種類ずつ計画した。 筋損傷予防のため翌2 日間は同じ運動を繰り返さないこ ととし,1 セット約10 回を1〜3 セット,体力にあわせて 負荷を増減した。
 [帰還後リハビリテーションプログラム]
 帰還後45 日間は,飛行前体力に回復させるため,毎日 2 時間リハビリテーションを計画する。帰還当日は,筋萎 縮,起立性低血圧,平衡機能障害による転倒予防のため 歩行介助する。帰還後2 日目は家族と一緒の時間を優先 する。帰還後3〜7 日目は,ジョンソン宇宙センター内の ジムで,有酸素運動,ストレッチング,体幹筋強化運動, マッサージなどの運動を実施した。有酸素運動は,着陸 直後は自転車エルゴメータ,その後エリプス運動,トレッ ドミル走,トラックランニング,坂道やでこぼこ道走の 順に段階的に進める。柔軟性向上と筋疲労回復を目的に, 運動開始時に体幹と四肢の柔軟体操,運動終了時に股関 節や背部などをゆっくり伸ばすストレッチングを行った。 転倒予防のため,ゴムバンドを用いた歩行,メディシン ボール運動,ラダードリル,ハードルを用いた障害物走 などを行った。体幹筋強化運動,バランス運動,および 抵抗運動も徐々に実施した。必要に応じて自然に恵まれ た保養所や温泉での積極的な休養や疲労回復と,社会復 帰準備を行い,リハビリを完成させる。