宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 135, 2009

宇宙基地医学研究会

4. JAXA-Biomedical Engineer(BME)とは?

相部 洋一

宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部

What is the role of JAXA-Biomedical Engineer?

Yoichi Aibe

Japan Aerospace Exploration Agency, Human Space Technology and Astronauts Department

 JAXA BME とは何か? まず,“BME” という言葉その ものが,日本では,まだ馴染み薄いものかもしれない。 例えばアメリカで“BME” とは,主に2 つの意味で知られ ている。ひとつは「Biomedical Engineering」,すなわち「生 物・医学・工学にまたがる領域における研究・開発活動」 あるいは,その研究技術の開発に携わる者,すなわち 「Engineer」を意味するものとして,である。日本では「生 体医工学」「医用電子/ 生体工学」などがそれに該当する。 もうひとつは,国際宇宙ステーション(ISS)やスペース シャトル等において有人宇宙活動を行う宇宙飛行士の, 医学運用・健康管理活動に対し,医師であるフライトサー ジャンとともに関わる専門スタッフを指す職名としての “Biomedical Engineer” である。本報告では,後者につい て述べる。
 NASA BME の担当領域は,軌道上における健康管理計 画全体の調整およびとりまとめ(文書制定・改訂作業等 を含む)や交代勤務のある医学担当フライトコントロー ラー業務,さらにISS やシャトル内にある健康管理機器 類の運用管理等,多岐に亘る。そのため,NASA ではISS 運用担当のBME に限定しても,常に約20 名以上がその 任務にあたっている。“JAXA BME” は2008 年度,日本人 宇宙飛行士による初のISS 長期滞在開始に先駆けて,総 勢3 名(養成中1 名を含む)により活動を開始した。そ の業務内容は,範囲こそNASA BME には及ばないものの, ISS 運用に参加している各極協働で行われるISS 医学運用 に参加し,またJAXA としてチーム医療体制で行う宇宙飛 行士の健康管理活動上,重要な機能を果たした。
 飛行前は,主に日本人宇宙飛行士の滞在中に行われる 健康管理運用計画の内容確認や国際調整作業を担当した。 滞在中は,飛行士の健康管理活動の進捗確認やNASA 経 由でのデータ取得,さらに各国の実験やISS の維持管理 等多岐に及ぶ飛行士の活動計画の事前レビューおよび実 績確認によるワークロード評価を行った。またISS から, NASA 経由で音声/ 画像をリアルタイム接続して実施され る,精神心理面談(Private Psychological Conference : PPC) および日本に居住する家族とのプライベートな交信(Private Family Conference : PFC)の実施支援を行った。
 折しもISS では2009 年5 月末より,初の6 人常駐体制 が開始された。それまでの3 名体制と比較した場合,人 的リソースの拡充に伴い,各クルーの作業負荷等が軽減 される傾向が見られたが,その反面,運動器具の使用計 画や,PPC やPFC の実施計画など,調整がより難しくなり, 主に担当するNASA BME の負担が増加するなど,課題を 識別した。また,その実運用を通して各極の BME が得た 教訓も多く,特にJAXA BME は,初めての業務実践の場 であり,多くの経験が得られた。それらの教訓や課題は, 各極のBME 担当者が参加して開催されたデブリーフィン グにおいて報告,共有され,今後のISS 医学運用に活か されていくことになっている。