宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 128, 2009

宇宙航空医学認定医セミナー

4. 航空医療搬送時の航空事故について

片寄 隆正

航空自衛隊 航空安全管理隊

Overview of Air Medical Transport Accidents

Takamasa Katayose

Aero Safety Service Group, JASDF

 Air Medical Physician Association(AMPA)による2002 年の資料によれば,米国のHelicopter Emergency Medical Service(HEMS)は,1972 年から2002 年9 月までの約 31 年間の飛行時間が約300 万時間に達し,およそ275 万 人の患者を搬送している。この間,HEMS 事故は166 件 発生し,うち死亡事故は67 件で,183 名が亡くなっている。 10 万飛行時間あたりの事故率は,1992 年〜2001 年の平均 では3.78 である。1992 年〜2001 年では3.53,1997 年〜 2001 年では4.56 で,他の運航形態と比較しても低くはな い。  
 他方,National Transportation Safety Board(NTSB) に よる2006 年の資料によれば,2002 年1 月〜2005 年1 月 までの間に,55 件のEMS 事故が発生し,そのうち41 件 がヘリコプターによるもの,14 件が固定翼機によるもの であった。54 名が死亡し,19 名が重傷であり,この2005 年1 月以降にも,9 件のEMS が生起している。2006 年に は3 件の事故で5 名,2007 年には2 件の事故で7 名, 2008 年には8 件の事故で29 名が亡くなっている。  
 EMS の飛行時間は年々増加しており,1991 年には年間 16.2 万時間であったが,2005 年には年間30 万時間にもなっ ており,事故件数の増加を懸念したNTSB は,2002 年〜 2005 年にかけて起こった55 件のEMS 事故についての特 別調査を行っている。  
 HEMS 事故の特徴をいくつかあげると,飛行フェーズ では,離着陸時よりも巡航フェーズで多くなっている。 昼間よりも夜間飛行時の事故が多く,天候,特に視程不 良時の事故が多いことから,飛行中の視程環境の悪化が 影響していることが分かる。また, 障害物への衝突 (CFIT : Controlled Flight into Terrain)も多い。  
 事故要因としての人的過誤の関与は,7 割を越える。 Risk Taking,飛行前計画,飛行中の意思決定等の心理的 要因の影響が大であり,インシデント・レポートからも 注意転導,時間的圧力,コミュニケーション等の関与が 要因として導き出されている。  我が国のドクター・ヘリの運航も近年,夜間運航され る傾向にあり,これら米国のHEMS 事故の形態及びパイ ロットの心理状態等に注目すべき点がある。  
 また,我が国のドクター・ヘリ・パイロットは,運航 に携わっているある民間ヘリコプター会社の例ではある が,パイロットの操縦技量の維持に関して問題を抱え, 実施会社間に共通の教育訓練や技量維持の基準がない等, 飛行安全確保のためにはまだまだ改善すべき点がある。 拠点病院のドクター・ヘリ事業に対する取り組みの差が HEMS 回数の顕著な差となり,技量維持に影響するとい う現場サイドの声もある。  
 HEMS 事故防止のための施策として,対地衝突警報装 置(TAWS : Terrain Awareness Warning System),暗視ゴー グル等の暗視装置(NVIS : Night Vision Imaging System), オートパイロットの装備/ パイロット2 名での運航,飛行 データ記録装置の装備,気象状態についての情報伝達方 法の改善等,夜間又は視程悪化への対処並びに低高度飛 行インフラの整備等に関する施策が必要であろう