宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 127, 2009

宇宙航空医学認定医セミナー

3. 自衛隊における航空医療搬送の現状と将来

石川 誠彦

航空自衛隊 中部航空方面隊司令部 医務官

Present State of Aeromedical Transport in JASDF and the Future

Masahiko Ishikawa

Command Surgeon, Central Air Defense Force, JASDF

 自衛隊においては,災害派遣の一環として急患空輸を 実施している。昨今の防災意識の高まりとともに,都道 府県側の担当部署との連絡・調整会議も頻繁に開催され るようになってきた。災害派遣は要請が基本(要請主義) であり,要請に際しては,公共性・緊急性・非代替性に 代表される満たすべき要件がある。また,担当する窓口 が何処なのかを相互によく理解しておく必要がある。緊 急時の迅速かつ円滑な連携のために,普段から顔の見え る関係を構築しておくことは,極めて重要といえる。
 自衛隊は,離島等からの急患空輸を災害派遣の枠組み の中で,救難部隊や輸送機部隊を活用して実施してきた。 近年,ドクターヘリの整備や消防防災ヘリの活用等によ り,自衛隊の急患空輸の実績は徐々に減りつつあるが, 自衛隊機の性能や部隊の運用能力の点で,他に代え難い 能力を有していることも事実である。  過去には安易な要請が部隊の疲弊に繋がるとの指摘も あったが,近年では,都道府県と自衛隊との間で,災害 派遣による急患空輸に関する協定を結ぶ等,適正な派遣 に努めている。  
 また,航空自衛隊は,内外の情勢の変化を受けて,重 症患者の長距離航空搬送能力の向上をテーマに態勢を整 備してきた。ベトナム戦争以来,主要先進国においては, ヘリコプターによる搬送が,日常においても救急搬送の 手段として一般化する一方で,固定翼による長距離航空 搬送は,軽症もしくは回復期にある患者の後方搬送の手 段でしかなかった。20 世紀末の冷戦構造崩壊による国際 環境の変化と近年の医療の高度化により,旧来の野戦病 院中心の考え方だけでは,紛争地域で発生した重症患者 に十分な医療を提供することが困難となりつつある。紛 争地域もしくは被災地域から如何に安全に遠方にある既 存の高度医療機関に搬送するかが,各国とも軍の衛生に おける重要な課題となった。有事・災害時に発生する負 傷者に対して,平時と遜色のない医療を提供するため, 現地では安定化のみ実施し,容態を悪化させることなく 航空搬送する機能が必要とされるに到った。航空自衛隊 においても,平成18 年に航空機動衛生隊を発足させ,「空 飛ぶICU」として,有事や災害時に発生する重症患者の 後方搬送に備え,輸送機内の医療能力を飛躍的に向上さ せた。近年の技術的進歩に伴い携帯可能となった,多機 能モニター,人工呼吸器,超音波診断装置等の各種医療 機器を装備し,独自に開発した輸送機搭載型医療用コン テナ「機動衛生ユニット」の中で,重症患者に対して, 集中治療室レベルの全身管理を実施する専門部隊である。 「機動衛生ユニット」は,騒音,照明,振動等の機内環境 を改善するとともに,所要の酸素や水,電源を確保し, 安定化された3 名までの重症患者を収容することができ る。機内医療を担うチームは医師,看護師,救命士,管 理要員の4 名で構成され,現在は1 個チームであるが, 今後,整備すべき部隊規模を検討する。  
 今後は特定の部隊の整備に止まらず,メディカルコン トロール体制の構築や,病院機能の充実等,航空自衛隊 の衛生全体の救護医療機能を向上させ,医療の高度化や 内外の状況の変化に対応していくことが重要となる。