宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 126, 2009

宇宙航空医学認定医セミナー

2. ドクターヘリと他の搬送手段の特性に基づく有効な救急搬送手段の確立

立石 順久1, 2,北村 伸哉1,水野 光規1

1君津中央病院 救急・集中治療科
2千葉大学大学院 医学研究院 救急集中治療医学

Effective operation based on characteristic of doctor helicopter system

Yoshihisa Tateishi1, 2, Nobuya Kitamura1, Mitsunori Mizuno1

1Department of Emergency and Critical Care Medicine, Kimitsu Chuo Hospital
2Department of Emergency and Critical Care Medicine, Chiba University Graduate School of Medicine

 【はじめに】 Dr ヘリは重症患者の救命に大きな役割を 果たしている。一方で運行費用も莫大で各種の制約もあ ることから効率の良い運用が求められる。そこでDr ヘリ と他の搬送手段のそれぞれの特性を生かした有効な救急 搬送手段の確立について検討する。
 【Dr ヘリの有効性】 Dr ヘリは救急用の資機材を常備し たヘリコプターと,救急医,看護師,運行要員を常時待 機させることで,消防機関や病院からの出動要請に迅速 に対応することが可能である。ヘリの中には心電図モニ ター,除細動器,人工呼吸器,携帯型超音波装置などが 装備され,さらに各種処置物品や薬剤も乗せている。ド クターヘリは出動要請に対し,現場に近い学校のグラン ド等あらかじめ指定されたランデブーポイントに着陸し, 救急車とドッキングする。救急医と看護師は通常一度救 急車に乗り込んで,そこで患者評価と必要な処置を行っ た上で,ヘリにて基地病院や他の救命救急センターに搬 送する。
 これにより,患者の医師接触までの時間を短縮し,現 場において輸液,気胸の脱気等の救命に欠かせない処置 を開始できるほか,器具を用いた気道確保,各種薬剤投 与なども行える。また,早期に救急専門医が超音波や12 誘導心電図,血糖測定装置なども含めた各種装置も用い て診断を行えることから,最適な医療機関の選定を行う ことができ,さらに受け入れ病院では,搬送中にあらか じめ必要な緊急検査や手術の準備などを行うことも可能 とする。また,時速200 km 以上で飛行することができ搬 送時間の短縮にもつながる。
 【Dr ヘリの問題点】 一方機内は狭隘で飛行中に行える 処置は限られる。またドッキングのために迂回する必要 が生じることや現場滞在時間の延長により,病院からの 距離によっては救急車による直接搬入より病院到着時間 はむしろ遅延することもある。例えば病院でCT をとるま では出血か梗塞か判明しない片麻痺の症例のような場合, 安易に降圧もできず現場で行える処置は限られるため, そのような地域では救急車による直接搬入も考慮すべき と考えられる。一方で外傷に対する輸液や緊張性気胸の 脱気など早期医師接触を図ることで高い治療効果が証明 されている傷病もあり,今後搬送距離や疾患を考慮して 地域ごとにヘリ要請の適応をより詳細に検討していく必 要があると考えられる。またヘリは車両とは異なり搬送 中に停止することができず,換気も十分に行えない。こ のため,不隠な患者や家族,有毒ガスを生じる患者を搬 送することは避ける必要がある。さらに航空搬送特有の 問題として高度の影響が挙げられるが,通常ドクターヘ リの飛行高度では減圧症以外の疾患で明らかな問題を呈 することは少なく,挿管チューブのカフ容量の調整など も要さないことが多い。他に車両とは異なる運動特性を 持つことから搬送中の患者に加わる揺れや加速度も異 なってくるが,心拍ゆらぎ変動による自律神経解析の結 果でも,気流の安定した状態ではそれらはあまり問題と なることはなく,むしろランデブーポイントの不整地で のストレッチャー移動の方が刺激となり嘔吐などを引き 起こすことが多い。そのため,携行薬剤のなかでもメト クロプラミドの使用頻度は高い。
 【結語】 ドクターヘリシステムは病院前救護の質を著 しく向上させる一方,車両搬送にはない問題点も存在す る。今後他の搬送手段との特性の違いに応じた適切な使 い分けをさらに検討することで,ドクターヘリの有効性 をさらに高めていく必要がある。