宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 125, 2009

宇宙航空医学認定医セミナー

1. ドクターヘリシステムと地域の救急医療〜日本宇宙航空環境医学会認定医セミナーに向け て

水野 光規1,立石 順久1, 2,北村 伸哉1

1君津中央病院 救急・集中治療科
2千葉大学大学院 医学研究院 救急集中治療医学

“Doctor-Heli” system in regional emergency medical services

Mitsunori Mizuno1, Yoshihisa Tateishi1, 2, Nobuya Kitamura1

1Department of Emergency and Critical Care Medicine, Kimitsu Chuo Hospital
2Department of Emergency and Critical Care Medicine, Chiba University Graduate School of Medicine

 本学会で演者は,安城更生病院(愛知県安城市)にお けるドクターヘリ受入状況と地域の救命救急センターが 愛知県ドクターヘリ事業に果たす役割等に関して研究報 告を行ってきた。ドクターヘリの利点として,搬送時間 の短縮,搬送前に現場で迅速な二次救命処置が可能とな ること,休日等の限られた条件下で最適な搬送先選定が 可能となること等は諸報告のとおりである。日本におけ る航空機救急はドクターヘリコプター,消防・防災ヘリ コプター,自衛隊航空機,海上保安庁航空機,警察ヘリ コプター,民間医療搬送航空機等が存在し,機関ごとに その役割が異なる。ドクターヘリは道府県が主体となり 基地医療機関・運航会社に委託し運営されており,通常 は昼間・有視界時のみの運航,救急患者対応をその目的 とし,2009 年10 月現在16 道府県,20 か所で運営されて いる。その多くは搬送可能患者1 名,医療スタッフとし て医師・看護師各1 名の搭乗が標準的である。予算は1 基地あたり1 億7,000 万円,2007 年度の実績として1 基 地あたり平均472 件と報告されている。患者搬送先は基 地病院のみならず,地域の救急医療機関への搬送も行わ れている。地域の救命救急センター等がドクターヘリ搬 送の受入を行うことにより,重症患者の基地病院への一 極集中を抑止し,入院後に家族のケアが受けやすいこと が利点として挙げられる。一方,演者の新任地である君 津中央病院(千葉県木更津市)では2009 年1 月より千葉 県で2 番目のドクターヘリ運用を開始し地域の救命救急 センターとしての受入病院から千葉県南部を主な担当地 域とする基地病院へと変化した。2008 年,2009 年の各1 月〜9 月の9 ヶ月間に関して千葉県のドクターヘリ出動数 を比較すると,2008 年 447 件,2009 年 608 件と増加がみ られた。特に千葉県南部に関し,2008 年に53 件だったも のが2009 年に149 件と3 倍弱になっている。要請数の増 加要因を推測すると,重複要請時の相互補完による信頼 感,ドクターヘリの地域救急医療への浸透,現場までの 距離・時間の短縮による適応事案の増加等があげられる。 またドクターヘリを導入することで,基地病院である君 津中央病院は広範囲に迅速な救急初期診療の提供が行え るようになり同院が担当する救急医療圏は大幅に拡大し た。そして基地病院のみならず適切な医療機関への救急 搬送アクセスが改善した。これらのことは,ドクターヘ リシステムは手術,脳卒中t-PA 療法,小児・周産期医療, 集中治療等の救急医療資源を広域で有効利用可能としう ることを示唆している。最後にドクターヘリシステムの 問題点として,予算や運航費用の問題,砂塵等による機 体の損耗の問題,人的資源の問題,夜間・悪天候時の補 完や救助事案等における他のヘリ等との効果的な協働の 問題等が挙がってきた。以上,急速に全国的に普及しつ つあるドクターヘリシステムと地域の救急医療に関して, 本抄録内容を概要として第55 回日本宇宙航空環境医学会 大会における認定医セミナーにおいて述べた。