宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 124, 2009

宇宙航空医学認定医セミナー

航空医療搬送の運用システムに関わる問題点

緒方 克彦

防衛医科大学校 幹事

Problems on the Operational System of Aeromedical Evacuation

Katsuhiko Ogata

National Defense Medical College, Vice President

 宇宙航空医学認定医を取得した認定医のために2006 年 度から本セミナーが開催されている。第1 回セミナー(認 定医シンポジウム)では様々なジャンルで活躍する認定 医相互の活動状況報告と意見交換,昨年開かれた第2 回 では認定医の航空医学における役割・社会的位置づけを 再確認する見地から,フライト・サージャン(FS)の養 成と役割について米空軍のFS にも参加して頂き,セミ ナーを実施した。第3 回を迎える今回は,近年急速に運 用が拡大されつつある航空医療搬送をテーマに取り上げ ることとした。細部は各演者の抄録に譲るが,全体を俯 瞰して座長としての所感を述べる。
 水野先生,立石先生からはドクターヘリ事業全般の実 務・研究に携わってこられた経験から,ドクターヘリの 利点や受け入れ病院の発展可能性について論じて頂いた。 特に水野先生には,現在千葉県南部で急速に整備されて いるヘリ運航システムと受け入れ病院の紹介から,まさ にドクターヘリが“育ちつつある” 現状とその途上にある 問題点の紹介を,また立石先生には主として外傷性疾患 の航空医療搬送と地上搬送の特性の違いから生ずる利・ 不利についての詳説により,首都圏近傍の地域では航空 医療搬送が,搬送時間短縮および早期医師接触のいずれ の観点からも必ずしも有用と言えない,との貴重な提言 を頂いた。
 石川先生からは自衛隊災害派遣(急患搬送)の現状と 派遣要請の際のポイントについて示して頂き,更に我が 国唯一の長距離患者搬送を専門とする部隊,航空機動衛 生隊と保有する患者搬送用「機動衛生ユニット」を紹介 頂いた。同ユニットは米空軍ナイチンゲール機の如き患 者搬送用航空機の思想を離れ,複数の機種の航空機に設 置することにより,優れた医療環境と利便性を提供でき る事に加えてコストダウンも図れるというまさに世界初 の試みであり,今後早期の運用開始が期待される。
 片寄先生からは,ヘリコプター患者搬送の際に発生す る航空事故(HEMS 事故)について従来余り提示される 事の無い貴重な資料に基づき,一般の航空事故に比し発 生頻度がかなり高い事,通常航空事故は離発着時に高率 に発生するがHEMS 事故は運航時に最も多い事や,夜間・ 天候不良の影響を受けやすい事,障害物に衝突とするケー スが多い事を御教示頂き,航空患者搬送においてはその 必要性と緊急性とから,医療面だけではなく運航面にも 過大な負担が存在する事を示唆された。
 航空患者搬送は,航空医学上の主要課題の一つである 事は言うまでもなく,一般医師の関心や生涯の中で経験 する頻度も高いと考えられる。今後も本学会のテーマと して積極的に取り上げていく必要性を強く感じた次第で ある。