宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 119, 2009

シンポジウム

1. 温熱刺激による筋萎縮防止または萎縮からの回復に及ぼす影響とヒト骨格筋の特性に与え る効果

後藤 勝正1,杉浦 崇夫2,大平 充宣3,吉岡 利忠4

1豊橋創造大学保健医療学部
2山口大学教育学部
3大阪大学大学院医学系研究科
4弘前学院大学

Effects of heat stress on muscle atrophy and regrowth of atrophied muscle in experimental animals and human skeletal muscle

Katsumasa Goto1, Takao Sugiura2, Yoshinobu Ohira3, Toshitada Yoshioka4

1School of Health Sciences, Toyohashi SOZO University
2Faculty of Education, Yamaguchi University
3Graduate School of Medicine and Frontier Biosciences, Osaka University
4Hirosaki Gakuin University

 無重量環境への曝露や長期間のベッドレストなどによ る不活動や骨格筋に対する荷重除去は骨格筋に萎縮をも たらすことは良く知られている。骨格筋の萎縮は,生活 の質(QOL)を大きく低下させることから,骨格筋萎縮 を予防するためのカウンターメジャーの開発が急務と なっている。筋萎縮のカウンターメジャーとしては,筋 肉トレーニングなど骨格筋に対する負荷量を増大させる ことが一般的に行われている。しかし,筋肉量の増大(筋 肥大)をもたらす負荷強度は個々の筋力水準により異な るなど設定が煩雑であり,さらに宇宙飛行士に対する具 体的な負荷方法など,様々な問題を抱えている。筋力ト レーニングは,骨格筋細胞内に熱ショックタンパク質(heat shock proteins : HSPs)を誘導する。このHSPs の発現を 温熱刺激により予め増加させることで,筋萎縮が抑制さ れることが報告された(Naito et al., 2000)。この筋萎縮抑 制効果は温熱刺激によるタンパク合成増加によるものと 考えられ,温熱刺激が骨格筋肥大効果を持つことが明ら かになってきた。そこで,培養細胞実験から,動物実験 そしてヒトへの応用実験を通して得られた筋萎縮防止お よび萎縮からの回復促進策としての温熱刺激の有用性に ついて検討してみたい。