宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 116, 2009

一般演題

44. 国際空港クリニックにおける’09 年度インフルエンザの検討

赤沼 雅彦,村越 秀光,井上 毅,浅野 悦洋,岩瀬 龍之

日本医科大学成田国際空港クリニック

Influenza on 2009 at Narita International Airport Clinic

Masahiko Akanuma, Hidemitsu Murakosi, Takesi Inoue, Yoshihiro Asano, Tatsuyuki Iwase

Nippon Medical School Narita International Airport Clinic

 緒言: ’09 年4 月下旬メキシコと米国で新型インフルエ ンザが確認され,5 月8 日には成田検疫によって米国より の帰国便の旅客から新型インフルエンザが日本でも発見 された。一時的にり患患者数は増減を繰り返したが,直 後には爆発的な流行にはならなかった。6 月19 日より検 疫体制の変更により,有症者についても一般医療機関で の受診推奨へとなった。しかし,8 月より日本国内でも流 行が拡大しつつあり,空港クリニック受診者もインフル エンザ患者は増加傾向にある。さらに,9 月より学校で児 童生徒が爆発的な流行になる傾向にある。  
 方法: 所在地の千葉県のインフルエンザ患者状況と空 港クリニックでインフルエンザと診断された患者数等の 推移を比較検討してみた。また,空港クリニックでの通 常年のインフルエンザ発症状況と今年の新型を主とした インフルエンザ発症状況の違いについて比較検討してみ た。  
 結果: 千葉県での患者増加は31 週から始まっているが, 空港クリニックでは4 週早く27 週から増加が始まってい たと考えられる。また,受診患者割合は通常は空港関係 者7 割,旅客等は3 割であり,最近4 年間のインフルエ ンザ患者では旅客33.2%,空港勤務者55.6%,クルー4.7%, その他6.5% であったが,’09 年度(4 月以降)のインフル エンザ患者の比率は旅客71.0%,空港勤務者22.5%,クルー 5.3%,その他1.2% であり,著明に旅客の割合が高かった。 年代別で最近4 年間と今年度を比較すると10 歳未満でそ れぞれ3.4%,4.9%,10 歳代6.5%,16.9%,20 歳代40.1%, 41.8%,30 歳代27.5%,21.8%,40 歳代13.9%,8.4%,50 歳代5.9%,4.4%,60 歳以上2.4%,1.8% であり,今年度 は若年の20 歳未満が多く受診診断されていた。流行の主 体は最近では児童生徒が主体であり,千葉県では今年度 44 週のインフルエンザ発症者の約7 割が5 歳から14 歳ま でであるが,海外旅客や空港勤務者を対象としている空 港クリニックでは市中の流行世代よりは年齢構成が高い。 インフルエンザの型別はA 型88.8%,H1N1 確定例4.7%, B 型4.1%,不明2.4% であった。感染症情報センターの発 表によると7 月以降のA 型はほぼ新型と考えられている。 従って,27 週以降のインフルエンザはほとんどがA 型で あり新型インフルエンザH1N1 と考えられる。  
 考察: 以上患者数推移と患者割合の結果より,新型イ ンフルエンザのように比較的急性に発症する潜伏期の短 い感染症では,海外からの航空機旅客の窓口である空港 の診療所を国内の流行に先んじて患者が受診しているこ とを示唆していた。さらに,新型インフルエンザは昨年 までの季節性に比して発症患者の年齢が低い傾向があっ たが,国際空港内クリニックの特性上児童生徒の受診患 者が少ないことの影響もあると考えられた。