宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 111, 2009

一般演題

39. 潜水後の航空機搭乗に就いて 航空機の与圧との関係

吉田 泰行1,中田 瑛浩2,井出 里香3

1沖縄徳洲会 千葉徳洲会病院 耳鼻咽喉科・健康管理課
2沖縄徳洲会 四街道徳洲会病院 泌尿器科
3平塚市民病院 耳鼻咽喉科

About Flight after Diving ―in Relation with the Cabin Pressurization―

Yasuyuki Yoshida1, Teruhiro Nakada2, Rika Ide3

1Chiba Tokushuhkai Hospital, Department of ENT and Health Administration Clinic
2Yotsukaido Tokushuhkai Hospital, Department of Urology
3Hiratsuka City Hospital, Department of ENT

 潜水には業務・趣味と言った目的に関わらず,また有 史以前から行われている素潜りやスクーバの様な最新式 の器具を使うか否かに関わらず危険を伴う。
 その発症の要因は,@ 気圧性中耳炎・副鼻腔炎といっ た管腔臓器への圧外傷,A 高ガス分圧による不活性ガス の麻酔作用,B 及び減圧に伴う気泡の発生による障害即 ち減圧症である。
 近年,交通手段の発達に伴い移動手段の中には,高速 道路での峠越え・航空機への搭乗といった短時間での高 所移動を可能とし,海面上気圧からの急激な低圧環境暴 露を齎す事が有るため,潜水終了後の管理も注意が必要 であると考えられる。
 潜水の種類には,@ 例えば,耐圧潜水艇に乗って1 気 圧のまま潜る大気圧潜水,A 水面下の水圧がそのまま掛 かる環境圧潜水が有り,通常問題になるのは環境圧潜水 の方である。また環境圧潜水には,短時間潜水―即ち次 に言う飽和潜水に対して短時間の意,と飽和潜水が有り, 通常のいわゆる潜水と言うのは短時間潜水の方である。 趣味で行うレジャー潜水の代表がSCUBA 潜水である。
 潜水中の医学的問題点としては,@ 圧変化によるもの としては,先ず閉鎖腔の圧変化病変及び高圧徐脈や肺の 圧外傷,A 主として高ガス分圧によるものとして,窒素酔, 高圧神経症や呼吸器系障害,B 溶存気体の気泡化による ものとしては,減圧症がよく知られているが其の他空気 塞栓や大腿骨骨頭壊死に代表される骨変化が有る。
 其の中でも特に重要な浮上時の減圧に伴う障害に就い て見ると,減圧症I・II と空気塞栓が有る。
 減圧症の機序は浮上時の減圧による気泡の発生である が,その分類には発生した気泡がその場に留まり発症す るI 型,発生した気泡が血流に乗って移動し移動先で発症 するII 型が有り,II 型の方が重症である。
 航空機の与圧の点から考察すると,旅客機の場合SR と 言う与圧が有り,これはShort Range を表し近距離の飛行 の時適用される与圧であり,通常の与圧より低く行われ る。これは近距離飛行の際完全に近い与圧を行うと機体 内外の圧差が短時間に変化していくことになりそのため 機体の金属疲労が進行する。これを防ぐための与圧であ る。
 そこで長距離飛行と短距離飛行を疾患の点から比較し て見ると,与圧が関わる疾患の発生は近距離飛行の方が 多いと考えられる。従って潜水後の航空機搭乗による減 圧症も近距離飛行の方が発症し易いと予想される。一方 主として飛行時間が関わる疾患の発生は長距離飛行の方 が多いと考えられ,例えば深部静脈血栓症所謂エコノミー 症候群では遠距離飛行の方が発症し易いと予想される。
 潜水によって生じる疾患である減圧症は,浮上し潜水 終了後の環境圧によっても惹起され得る。従って潜水終 了後の高所移動の様な低圧暴露は好ましくない。とくに 潜水終了直後の航空機搭乗は,与圧の関係も有り避ける べきである。この場合,近距離飛行は通常より与圧を減 らす事が有り,注意が必要である。