宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 109, 2009

一般演題

37. 短時間の環境圧力の変化が疼痛感覚に与える影響

佐藤 純1, 3,櫻井 博紀2, 3

1名古屋大学・環境医学研究所 2浜松大学・保健医療学部 3愛知医科大学・学際的痛みセンター

Effect of short-term change in environmental pressure on pain perception in humans

Jun Sato1, 3, Hiroki Sakurai2, 3

1Research Institute of Environmental Medicine, Nagoya University 2Faculty of Health Sciences, Hamamatsu University 3Multidisciplinary Pain Center, Aichi Medical University

 [はじめに]
 我々人間は高度移動や気象変化などによる気圧変動に 常時暴されており,身体機能は何らかの影響を受けてい ると考えられる。特に,慢性痛,めまい,心臓疾患など 気圧変化に敏感な疾患に罹患している場合は急激な気圧 変化により症状の悪化をきたすこともあり,日常生活で 避けられない問題となる。しかしながら,環境圧力の変 化が人の健康に及ぼす影響についての研究は古くから気 象と疾病についての疫学的検討が行われるのみであり, 両者の因果関係を実験的に実証する試みはほとんど行わ れていない。そこで,我々はこの現象が人で実験的に再 現できるかを確かめるため,環境シミュレータを用いて 慢性痛に罹患する被験者を人工環境圧力変化に曝露し, 短時間の気圧変化が疼痛感覚に与える影響を観察した。
 [方法]  
 被験者は,低気圧接近・通過時に症状が悪化するとの 訴えがある慢性痛の罹患者5 名(感受性群)と,感受性 のない罹患者2 名(非感受性群)である。環境圧力変化 として,環境シミュレータを用いて10-30 分間で大気圧 から20-40 hPa 減圧し,15-30 分間低気圧環境に保持し, 10-30 分間で大気圧に戻した。そして,質問票への回答, 疼痛VAS スコア,Pain Vision(疼痛計)で得られる「痛 み度数」を指標とし経時的に記録した。対照実験では, 本人には告知なしで気圧変化を行わず,同様のプロトコ ルで記録した。
 [結果]  
 感受性群では全例で,日常の天候悪化時に体験してい る症状の変化(疼痛悪化,めまい感出現など)が低気圧 曝露によって再現された。疼痛VAS スコアと痛み度数の 変化は相関するが,指標が変化するまでのパターンと増 強の程度は被験者ごとに異なっていた。一方,非感受性 群では気圧を変化しても症状の明らかな変化が見られな かった。対照実験では,両群ともに症状の変化を示さな かった。  
 [結論]  
 今回の研究は,慢性痛が環境圧力の変化で増強する現 象を,人工低気圧曝露により実験的に再現できたものと 考えられる。