宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 107, 2009

一般演題

35. 後肢懸垂が発育期ラットの脳ニューロン新生に及ぼす影響

野村 幸子1,上 勝也1,河野 史倫1,尾家 慶彦1,大平 宇志2,藤田 諒1,大平 充宣1, 2

1大阪大学医学系研究科
2大阪大学生命機能研究科

Effect of hindlimb suspension on hippocampal neurogenesis in juvenile rats

Sachiko Nomura1, Katsuya Kami1, Fuminori Kawano1, Yoshihiko Oke1, Takashi Ohira2, Ryo Fujita1,Yoshinobu Ohira1, 2

1Graduate School of Medicine, Osaka University
2Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University

 宇宙飛行士による宇宙滞在が長期化する中,微小重力 環境での筋活動低下によって滞在中および帰還後にもた らされる生体の変化が重要視されている。最近,実験動 物において身体活動量の変化が脳のニューロン新生に影 響を及ぼすことが証明された。そこで本研究では,発育 期ラットに後肢懸垂を施し,脳のニューロン新生に対す る筋活動低下の影響について検討した。また,後肢懸垂 解除後に床上で飼育して筋活動回復時の変化も観察した。 雄性ウィスターハノーバーラットを実験前の群(3 週齢), 14 日間の後肢懸垂を行う群(5 週齢),14 日間の後肢懸垂 後,14 日間ケージ内飼育に戻し後肢に抗重力活動を再負 荷する群(7 週齢),それらと週齢を合わせた対照群に分け, 灌流固定脳のサンプリングを行った。摘出した脳は後固 定およびシュクロース処理の後,冷却イソペンタン中で 凍結させた。各群の脳サンプルの凍結切片を作成し,細 胞増殖のマーカーである増殖性細胞核抗原(proliferating cell nuclear antigen, PCNA)に対する抗体および未成熟 ニューロンのマーカーであるダブルコルチン(doublecortin, DCX)に対する抗体を用いて免疫組織化学的に解析し た。対照群において,海馬体歯状回のPCNA 陽性細胞は 3 から5 週齢にかけて減少したが,対照群と後肢懸垂群の 間に有意な差はなかった。またPCNA とDCX のダブルポ ジティブ細胞数も,対照群と後肢懸垂群との間に有意な 差はなかった。一方,対照群のDCX 陽性細胞は3 から7 週齢にかけて成長に伴い減少したが,さらに後肢懸垂群 で対照群と比較して有意に少なかった。このように,未 成熟ニューロンは後肢懸垂によって減少していたが,14 日の回復後には同週齢の対照群と同程度だった。以上の 結果から,発育期において脳ニューロン新生は後肢懸垂 により可逆的に妨げられることが示唆された。このこと から,宇宙空間滞在中の運動プログラムの実施は,脳機 能の維持に対しても有効である可能性が示された。本研 究は日本学術振興会科学研究費補助金(19100009, 21700654)の助成を受けて実施された。