宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 106, 2009

一般演題

34. 加速度低下時に誘発される低血圧に対する血管拡張物質の影響

進来 塁1,丸山 聡2,徳丸 治1,黒木 千尋1,横井 功1,西田 育弘2

1大分大学 神経生理学講座
2防衛医科大学校 生理学講座

Effects of L-NAME and Indomethacin on hypotension under decreasing acceleration

Rui Suzuki1, Satoshi Maruyama2, Osamu Tokumaru1, Chihiro Kuroki1, Isao Yokoi1, Yasuhiro Nishida2

1Dept. of Neurophysiology, Oita University
2Dept. of Physiology, National Defense Medical College

 戦闘機パイロットは旋回時に強い加速度(Gz)負荷を 受け,その結果静脈還流量が減り,視野狭窄,意識喪失 (G-LOC),中枢神経障害などを引き起こす可能性がある。 これらの予防策として耐G スーツの着用やGz 負荷中の耐 G 動作などを行っている。我々は今までに,Gz 負荷に伴 う耐G スーツによる下半身圧迫解放直後に脳レベル血圧 (APBr)が低下することを動物実験モデルにより見出し, その発生機序について,心機能や自律神経活動の観点か ら検討を行い,末梢血管抵抗の減弱がその一因であるこ とを示唆した。今回我々はこの末梢血管抵抗低下の原因 を求めるため,耐G スーツ作動により放出される血管拡 張物質の影響を調べた。ウレタン麻酔を施した雄性SD ラット(12〜14 週齢,350〜450 g)を用い,APBr,中心 静脈圧(CVP),心電図及び心拍数(HR)を測定した。加 速度負荷には小動物用加速度装置を,耐G スーツとして 小動物用の耐G スーツを用い,戦闘機パイロットと類似 の条件を模擬した。加速度負荷は0.08 g/sec という非常に 遅いオン,オフセットレートで,最大5 G の負荷を15 秒 間行った。血管拡張物質であるNO とPGE2の合成酵素の 阻害剤である,L-NAME とIndomethacin を使用し,NO とPGE2の関与の可能性を検討した。APBr 値は,薬剤投 与により基準レベルが変動するため変化率で比較したと ころ,L-NAME 投与群における耐G スーツ解放直後の APBr 値とコントロール値の比較はそれぞれ,38.81±8.70% vs. 38.39±4.62%(投与vs. Behicle ; mean±SD),Indomethacin 投与群では36.29±7.11% vs. 40.30±6.74%( 投与vs. Behicle ; mean±SD)となり,有意な変化を認めることが できなかった。HR 及びCVP の値にもそれぞれ差は認め られなかった。これらの結果は,今回検討した血管拡張 物質である,NO やPGE2が耐G スーツ作動終了後の末梢 血管抵抗の減弱に関与していないことを示唆するもので あり,今回の実験条件では,耐G スーツ解放直後の大き な血圧低下の原因として,NO やPGE2が関与している可 能性は低いものと考えられる。