宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 103, 2009
一般演題
31. 低重力環境からの視運動性眼振反射について
野村 泰之1,池田 篤生1,増田 毅1,戸井 輝夫1,粂井 康宏2,藪下 忠親2,石田 宝義2,Jorge Zered3,鴫原 俊太郎1,池田 稔1
1日本大学医学部 耳鼻咽喉・頭頸部外科学分野 2東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 3ブラジリア大学
Optokinetic Nystagmus during Low-Gravity Environment
Yasuyuki Nomura1, Atsuo Ikeda1, Takeshi Masuda1, Teruo Toi1, Yasuhiro Kumei2, Tadachika Yabushita2, Takayoshi Ishida2, Jorge Zered3, Shuntaro Shigihara1, Minoru Ikeda1
1Department of Otolaryngology-Head and Neck Surgery, Nihon University of Medicine 2Graduate School, Tokyo Medical and Dental University 3University of Brasilia
【はじめに】 ヒトの前庭平衡機能は内耳前庭への重力
入力や視覚入力・体性感覚など様々な要素によって維持
され,これまでにも軌道上実験やパラボリックフライト
を用いた微小重力実験は数多く行われてきた。しかし今
後の有人探査を踏まえた,月および火星などの低重力環
境に沿った重力変化に関する知見は少ない。今回我々は
JAXA「月火星等汎低重力への生体応答に関する研究班
WG」において,パラボリックフライトによる低重力環境
実験の機会を得て,重力環境の変化に対する視運動性眼
振(optokinetic nystagmus : OKN)の応答をヴァーチャル
リアリティを利用したヘッドマウント型電気眼振計で測
定した。
【対象・方法】 健常成人被験者4 名が搭乗したが1 名
は酔いを呈してしまったために,3 名のデータで検討した。
ヘッドマウント型電気眼振計(視野角度45×35 度)で上
眼瞼向き毎秒60 度の垂直OKN 刺激(白黒水平線状ヴァー
チャル画面)を与え,眼振波形をコンピュータで測定した。
Partial-G 弾道飛行によって得られる0.4 G から0.01 G ま
での低重力環境において各Partial-G ごとのOKN を計測
した。低重力曝露前後で得られた1.2 G 環境でのOKN お
よび1 G 環境でのOKN と比較検討した。
【結果】 OKN 最大緩徐相速度について被験者3 名の結
果平均を検討すると,0.4 G 以下の低重力環境に緩徐相の
速度増加がみられ,1.2 G および1 G を含めた相関係数は
0.795 であった。低重力環境でのOKN 緩徐相速度の増加は,
低重力環境に突入すると視標の動きがゆっくり感じられ
たという被験者たちの自覚と一致した。
【考察・結語】 これまで月(0.17 G)や火星(0.38 G)
を含む低重力環境での前庭実験報告は無い。今回は粂井
らによるPartial-G 弾道飛行によって低重力環境を作り,
OKN 特に重力の変化を受容する球形嚢斑の応答を生じや
すい垂直方向の視運動性眼振を計測検討した。従来,微
小重力環境に突入すると前庭反射は低下する報告が多
かったが,今回の検討では低重力環境への超急性期暴露
においては上眼瞼向き垂直OKN は亢進し,被験者の自覚
とも一致した。そのメカニズムの解明に関しては耳石器
や前庭反射系の重力からの脱抑制や,眼球重量の軽減性,
外眼筋・眼窩脂肪組織の可動性なども含めて更なる追試
が必要と考えられた。
【謝辞】 本実験は共同研究者の粂井康宏へのJAXA なら
びにJSF : FY2006-2008 の支援によって行われた。また,
機材協力に関してPanasonic 四日市工場・澤井章人様およ
び第一医科株式会社に深謝申し上げます。