宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 98, 2009

一般演題

26. メダカ腸管を用いた消化管機能の可視化と定量化の検討

浅香 智美,新堀 真希,向井 千秋

独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

Visualization and Quantification of Peristaltic Activity in Medaka

Tomomi Watanabe-Asaka, Maki Niihori, Chiaki Mukai

Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

 【はじめに】
 国際宇宙ステーションが本格起動し,宇宙飛行士の長 期滞在が実現した。宇宙環境において宇宙飛行士が受け るストレス影響の理解と環境改善のための基礎データ取 得は,宇宙環境における健康管理において今後ますます 重要となる。「第2 の脳」と称される消化管は,外界のス トレス影響に最も如実に反応する器官であり,放射線照 射など物理化学ストレスによる生体影響を評価する上で 非常に有効である。実際にグル音の消失など宇宙滞在中 に飛行士の消化管運動の低下が示された例もあるが,体 の内側に存在する消化管に生じる変化を直接観察・評価 することはこれまで非常に困難であった。
 メダカは,宇宙でその一生を観察できる脊椎動物であ り,透明な発生期や成魚でも色素欠損の系統を有し,遺 伝学的手法が容易であるなどの利点を持つ。我々は,ヒ トとメダカの消化管の類似点を活かし,ストレスの生体 への影響を消化管への影響から評価すべく,メダカ消化 管をライブ・イメージングの技術を用いて解析している。
 【測定方法】
 本研究の最大のポイントは,リアルタイムかつ非侵襲 的に体内を観察できることにある。また,メダカは十分 に小さいため,1 台のカメラで複数の臓器を同時に撮影す ることができ,臓器間での相互関係を評価可能である。 腹膜の透明な系統(SK2)を用いて,無麻酔下での状態を 撮影することとした。成魚における光の透過性を高める ために黒色ゲルを用いて,蛍光実体顕微鏡上で高解像度 カメラによる撮影を行った。撮影は,5 分程度とし,メダ カへの負担を極力軽減した。
 得られた画像は,時間経過に伴う変化として,Final Cut Pro 及びBohboh を解析ソフトとして利用して処理を行い, 蠕動運動及び心拍の測定を行った。
 【結果と考察】
 本解析方法を用いて,腸管の蠕動運動を評価すること ができることが明らかとなった。得られた個体では,蠕 動運動時の収縮期が周期のほぼ半分を占めていることが わかった。また,同時に撮影した心臓の画像から,心拍 の頻度を測定することが可能であることも明らかとなっ た。心拍は,温度の変化によって著しく変化し,0℃ 低 温下では常温の約50% の回数まで低下することが明らか となった。
 本研究では,メダカを用いたライブ・イメージングに よりメダカ体内の運動を観察する系の確立と,得られた 画像を元にした運動の定量化ができることが明らかと なった。今後は,各種ストレス環境下での体内動態の評 価に加えて,自律神経系作用薬剤スクリーニングなどを 行う予定である。併せて,ヒトとの機能面での相違点を 明らかにし,ISS 長期滞在宇宙飛行士の医学管理技術への 応用に役立てる。
 本研究は,東京大学 三谷啓志教授及びその教室員の 方々,お茶の水女子大学 馬場昭次名誉教授,山口大学  佐々木功典教授,寺井崇二講師及びその教室員の方々に 協力をいただいている。