宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 94, 2009

一般演題

22. ラット頚動脈洞圧反射の定常応答の推定に必要とされるステップ状入力時間の検討

川田 徹,神谷 厚範

国立循環器病センター研究所 先進医工学センター 循環動態機能部

Step Duration Required for Estimating Rat Carotid Sinus Baroreflex Properties

Toru Kawada, Atsunori Kamiya

Department of Cardiovascular Dynamics, Advanced Medical Engineering Center, National Cardiovascular Center Research Institute

 【背景】 種々の環境における循環適応や病態の解明に おいて,ラットなどの小動物を用いた循環器研究が重要 になってきている。動脈圧反射系は血圧維持のための主 要なネガティブフィードバック系であり,その開ループ 定常応答の評価は血圧調節機構の理解に不可欠である。 これまでに,動脈圧反射系の定常応答を同定するために, ラットの頚動脈洞を体循環から分離して,1 ステップ60 秒の階段状入力を加えるような方法が使われているが, 定常応答の測定に60 秒のステップ時間が必要かどうかは 曖昧であった。
 【目的】 ラット頚動脈洞圧反射系の開ループ定常応答 の推定に必要な最短のステップ時間を決定する。
 【方法】 ウレタン+α クロラロース麻酔下のSprague- Dawley ラット8 匹を用いて,頚動脈洞を体循環から分離 し,頚動脈洞内圧(CSP)をサーボポンプで制御した。腹 腔交感神経節の枝に電極を装着し,遠心性の交感神経活 動(SNA)を記録した。右大腿動脈より動脈ラインを挿 入し,体血圧(AP)を記録した。CSP に1 ステップ20 秒 と60 秒の階段状入力(60〜180 mmHg,20 mmHg 刻み) を加えて,SNA とAP の応答を調べた。得られたデータ を基に,動脈圧反射系の中枢弓(CSP → SNA)をシグモ イド曲線に,末梢弓(SNA → AP)を直線に最小二乗近似 してパラメータを推定した。
 【結果】 60 秒の階段状入力において,ステップ開始か ら5,15,25,35,45,55 秒目から5 秒間の平均値を用 いて解析したところ,15 秒目以降のデータは定常応答に ほぼ一致した。また,1 ステップ20 秒と60 秒の階段状入 力を加えて推定した中枢弓を示すシグモイド曲線は,応 答範囲63±10 vs. 62±8%,動作点122±3 vs. 126±3 mmHg, 最大ゲイン1.4±0.3 vs. 1.6±0.3%/mmHg であり,統計的 に有意差はなかった。動脈圧反射の末梢弓を示す直線は, 傾き1.2±0.1 vs. 1.1±0.1 mmHg/%, 血圧切片26±13 vs. 29±8 mmHg であり,統計的に有意差はなかった(n=8, 平均±SE)。
 【結論】 ラットの場合,1 ステップ20 秒の階段状入力 で動脈圧反射系の定常応答をほぼ把握できると言える。