宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 93, 2009

一般演題

21. システム生理学によって,自律神経系および心循環器系の動態を予測する試み

神谷 厚範,川田 徹

国立循環器病センター研究所循環動態機能部

Prediction of autonomic nervous and cardiovascular systems dynamics

Atsunori Kamiya, Toru Kawada

Department of Cardiovascular Dynamics, National Cardiovascular Center Research Institute

 自律神経系や心循環器系は,多様な調節系を内包した 複雑なシステムであるため,その理解は容易ではない。 特に,その動的な振る舞いを予測するのは困難である。 しかしながら,その一部については,制御工学を利用し てシステムの伝達特性を同定すると,入力から出力の予 測が,可能な可能性がある。そこで,以下を検討した。
 (1) 交感神経による心拍数調節(ウサギ): 白色雑音 法を利用した神経刺激によって求めた伝達関数は,低周 波数帯域通過特性(low-pass filter)であった。伝達関数 は円滑で,最低周波数の位相は約ゼロ,コヒーレンスは 約0.9 であり,実験時間内においてはおよそ時不変であっ た。この伝達関数によって,実測した交感神経活動から 心拍数を精度90% で予測することが出来た。
 (2) 圧反射における中枢の交感神経調節(ウサギ): 開ループ法で圧受容器に白色雑音法の人工圧を負荷して 求めた伝達関数は,高周波数帯域通過特性(high-pass filter) であった。伝達関数は円滑で,最低周波数の位相は 約−π,コヒーレンスは約0.9 であった。伝達関数を用いて, 閉ループ状態においても,血管収縮・拡張剤を投与して 体血圧を変化させた時の交感神経活動の変動を,精度 90% で予測することが出来た。
 (3) 皮膚交感神経活動による皮膚血流量の調節(ヒ ト): 伝達関数は,遅れ時間約3 秒,時定数約3 秒の低周 波数帯域通過特性(low-pass filter)であった。実測した 血管収縮性皮膚交感神経活動(発汗性神経の混入は暑熱 負荷しても観察されなかった)から,皮膚血流量(レーザー ドップラー血流計)を予測したが,精度は約50% に留まっ た。
 以上より,今回対象とした自律神経系や循環調節系の システム動特性は,伝達関数が円滑で,比較的,線形性 が高く,時不変であった。従って,入力から出力を,あ る程度,予測可能であった。