宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 91, 2009

一般演題

19. 水中あぐら姿勢が下大静脈横断面積に及ぼす影響

小野寺 昇1,白 優覧1,吉岡 哲2,西村 一樹3,関 和俊4,小野 くみ子5,山口 英峰6

1川崎医療福祉大学
2川崎医療福祉大学大学院
3広島工業大学
4流通科学大学
5神戸大学
6吉備国際大学

Effects of sitting cross-legged in water on cross sectional area of inferior vena cava

Sho Onodera1, Wooram Baik1, Akira Yoshioka2, Kazuki Nishimura3, Kazutoshi Seki4, Kumiko Ono5, Hidetaka Yamaguchi6

1Kawasaki University of Medical Welfare
2Graduate school, Kawasaki University of Medical Welfare
3Hiroshima Institute of Technology
4University of Marketing and Distribution Sciences
5Kobe University
6KIBI International University

 【背景】 水中座禅は,安定期妊婦の水中運動プログラムである。水中座禅とは,潜水し,プールの底であぐらをかき,止息するプログラムであるが,水中座禅時の著名な生理応答として心拍数の減少が,報告されている(佐々木ら,1993。林ら,1999)。このことには,水の物理的特性による静脈還流量の増大が寄与しているものと推察される。陸上におけるあぐら姿勢(座禅姿勢)時の腹部大静脈横断面積が,椅座位姿勢時と比較して増大するものの,心拍数および一回拍出量には差がないことをすでに明らかにした(第16 回日本運動生理学会大会,2008。第54 回日本宇宙航空環境医学会大会,2009)。あぐら姿勢による下大静脈横断面積の増大は,下肢からの静脈還流量の増大に伴うものではなく,血管の上下方向への伸張が抑制されることが影響したものと推察する。姿勢の影響により,下大静脈横断面積が増大したのであれば,水中でのあぐら姿勢時の下大静脈横断面積は,水圧等の影響により,下肢からの静脈還流量が増大し,陸上よりも増大するものと仮説立てた。
 【目的】 陸上あぐら姿勢時および水中あぐら姿勢時の下大静脈横断面積を比較検討することとした。
 【方法】 本研究には,6 名の健康な成人男性(22±1 歳)が参加した。被験者の身体的特性は,身長: 172.2±6.5 cm,体重: 64.2±6.0 kg であった。全ての被験者には,実験内容に関する説明を行い,実験前にインフォームドコンセントを実施した。各被験者の陸上および水中(水位: 頸部,水温: 31℃)あぐら姿勢時の下大静脈横断面積を,超音波エコー法を用いて評価し,比較検討した。マイクロコンベックス探触子を用い,腹大動脈および下大静脈が描出されるようにし,呼息時の静止画像を記録した。記録した静止画をコンピュータに取り込み,各条件時の横断面積を算出した。
 【結果および考察】 水中あぐら姿勢時の下大静脈横断面積(4.72±1.10 cm2) は, 陸上あぐら姿勢時(4.11±1.23 cm2)と比較して,有意に増大した(P<0.05)。この知見は,仮説を支持するものであった。陸上および水中あぐら姿勢時の下大静脈横断面積に有意な差が観察されたことから,下大静脈横断面積が浸水により変化することが示唆された。すなわち,あぐら姿勢と水の持つ物理的特性が,下大静脈横断面積の増大に寄与するものと推察する。
 【まとめ】 あぐら姿勢時の下大静脈横断面積は,浸水により増大することが明らかになった。