宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 89, 2009

一般演題

17. トイレ環境が排泄時の「いきみ」の循環動態と直腸内圧に及ぼす影響

桑原 裕子1,今井 美香2,西村 直記4,横山 清子3,岩瀬 敏4,菅屋 潤壹4

1愛知医科大学大学院
2名古屋大学大学院
3名古屋市立大学大学院
4愛知医科大学

The effects of strain on HR,SBP and intrarectal pressure in a lavatory

Yuko Kuwahara1, Mika Imai2, Naoki Nishimura4, Kiyoko Yokoyama3, Satoshi Iwase4, Junichi Sugenoya4

1Graduate school, Aichi Medical University
2Graduate school, Nagoya University
3Graduate school, Nagoya City University

 1. はじめに
 トイレは1 日の生活時間のうち,非常に短い時間しか滞在しないにもかかわらず,その中における事故(疾病,外傷等)の発生率が高く,死亡につながることの多い特殊な環境である。それは,排泄における急激な血圧上昇と低下が循環器疾患を招くおそれがあり,不整脈,狭心症,心不全の悪化などの合併症,失神などの意識消失による外傷が発生する危険をはらんでいるからである。そこで,各種環境のもとで排便のシミュレーションを行い,安全性を検討した。
 2. 方法
 循環器および消化器疾患を持たず規則的な排泄習慣のある成人の男女21 名(33.2±11.4 歳)を対象に仰臥位と坐位でいきみ圧10, 20, 30 mmHg の負荷を試みた。それぞれの体位で10 分間の安静後,3 種類のいきみ圧を15 秒間負荷し,負荷後は2 分間の安静を設けた。いきみ圧はロート状のマウスピースをくわえ,血圧計にてモニターした。直腸内圧(直腸内にバルーンカテーテルを留置),胸部インピーダンス(Kubicek 法にて),心拍および血圧(Finapres)をそれぞれサンプリング周波数1 KHz でAD 変換して記録した。心拍数と血圧はspline 関数を用いて1 秒間隔で補間し,心拍変動はWeblet 解析を行い,いきみ圧,直腸内圧および胸部インピーダンスは1 秒ごとの平均値にて求めた。
 3. 結果と考察
 直腸内圧は坐位と仰臥位はすべてのいきみ圧で坐位の方が高く(20 mmHg でP<0.05,30 mmHg でP<0.01),直腸内圧を上昇させるには仰臥位より坐位のほうが有効であることがわかった。
 収縮期血圧の変化は従来のValsalva 法の報告と同じようにI 期からIV 期を区別した。I 期とIII 期の変化には体位による差はなかったが,II 期の血圧下降変化量は坐位と仰臥位でいきみ圧10 mmHg(P<0.01),20 mmHg(P<0.05),30 mmHg(P<0.01)と坐位のほうが大きかった。IV 期の血圧上昇の変化量は坐位と仰臥位でいきみ圧10 mmHg(P<0.01),30 mmHg(P<0.05)と 20 mmHg以外は有意差があった。
 心拍数は静脈環流量の変化に伴い増加するが,いきみ後の増加量は坐位と仰臥位は10 mmHg(P<0.05),20 mmHg(P<0.01)となり,30 mmHg 以外は有意差があった。
 心拍変動への影響はいきみ中のLF/HF 比はすべてのいきみ圧で坐位が大きく,10 mmHg と30 mmHg で有意差があった。尚,HF パワーには有意差はなかった。
 循環動態への影響はいきみ開始時の血圧下降変化量といきみ後の血圧上昇変化量および心拍数増加量が坐位で特に大きく,迷走神経性圧受容器反射の亢進とLF/HF 比の増加が関係していると考えられた。
 直腸内圧を一定にした場合は,循環動態への影響に有意差はなかった。