宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 88, 2009

一般演題

16. 帯電微細水分粒子発生機能付きエアコンが皮膚角質層の水分保持機能へ及ぼす影響

大野 秀夫,西村 直記,岩瀬 敏,菅屋 潤壹

愛知医科大学

Influences of ionized water vapor on the hydration state of the skin during air-conditioning

Hideo Ohno, Naoki Nishimura, Satoshi Iwase, Junichi Sugenoya

Aichi Medical University

 はじめに
 本研究では微細水分粒子(ミスト)発生機能付きエアコン使用時にミストが皮膚角質層に浸透し皮膚に潤いを与え,皮膚の乾燥防止に貢献できるか否かを観察し,あわせて迷走神経活動を示す指標である心拍変動の周波数解析からリラクゼーション効果についても考察した。
 実験方法
 被験者は35 歳〜45 歳の健常女性20 名,着衣はT-シャツ,スウェット上下,綿ソックス。実験は愛知医科大学人工気候室で行った。実験条件としてミスト発生量1 倍(基準量),3 倍,6 倍の3 条件をミスト群,ミストなし(コントロール)の計4 条件を設定した。被験者は室温24℃,相対湿度35% の室内へ入室し更衣・センサー装着を行い60 分間椅座安静で滞在後,いずれかの条件下でさらに2時間滞在した。皮膚の生物物理的指標として皮膚コンダクタンスおよび経皮水分蒸散量(TEWL)を前額,外眼角,頬,手背において30 分毎に測定した。自律神経活動の指標としてECG を連続測定し,心拍変動の周波数分析をおこなった。
 (作業仮説)ミストは(−)帯電の直径20〜70 nm の微細水分粒子であるため約50 nm の角質細胞間に浸透し角質層を潤わせ,皮膚表面では空気中の水分子を引き寄せ,皮脂をエマルジョン化して皮脂膜を形成しTEWL を抑制する効果が期待できる。
 結果及び考察
 ミスト発生量と皮膚コンダクタンス,TEWL の間に相関はみられなかった。
 1) 皮膚コンダクタンス: 前額では各条件下でほぼ横ばいであった。外眼角はコントロールでは時間ともに有意に漸減していった(P<0.05)。ミスト群は横ばいを維持し, ミスト1 倍とコントロール間に有意な差がみられた(P<0.01)。外眼角は年間を通してTEWL が多い部位であるため経皮吸収率も高いと思われる。よってミストが吸収されて角質層の水分を保持したと考えられる。頬は外眼角と同様な変化を示したが有意ではなかった。手背でもミスト群がコントロールより有意に多かった(ミスト1 倍: P=0.06,ミスト6 倍: P<0.01)。
 2) TEWL : 前額,外眼角ともにいずれの条件でもほぼ横ばい状態を維持していた。頬ではコントロールが減少傾向を示したがミスト群はほぼ横ばいを維持し,ミスト1 倍条件とコントロールの間でその傾向がよくみられた(P=0.06)。頬は角質層の厚い部位であるためミスト吸収が少なく皮膚表面に付着し,水分蒸散量を増したと考えられる。手背は頬に似た変化であったが有意ではなかった。
 3) 心拍変動HF 成分: ミスト発生初期におけるミスト群のHF 成分がコントロールに比べて高いレベルにあり,迷走神経活動の優位な状態がうかがわれた。
 まとめ
 エアコン使用時にミストを室内へ発生させることは皮膚乾燥を和らげる効果を有することが示唆された。また,リラクゼーション効果を有する可能性も示唆された。本実験結果は航空機内のような低圧によるTEWL が増加しやすい環境への応用も期待できる。