宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 85, 2009

一般演題

13. モーション機能がドライビング・シミュレータ酔に与える効果

王 星1,奥田 翔1,小澤 淳一1,椎名 司2,増田 修1,井須 尚紀1

1三重大学 工学部 情報工学科
2株式会社日立ケーイーシステムズ

Contribution of a motion base to reduction of simulator sickness

Wang Xing1, Sho Okuda1, Jun-ichi Ozawa1, Tsukasa Shiina2, Osamu Masuda1, Naoki Isu1

1Faculty of Engineering, Mie University
2Hitachi KE Systems, Ltd.

 1. 目的
 ドライビング・シミュレータに自動車の加減速に応じて座席をピッチさせるモーション(揺動)及び走行中の車体振動を模擬した振動を付加し,「現実感」,「走行感」及び「快適さ」を測定して,揺動や振動がシミュレータ酔に与える効果を検討した。
 2. 実験方法
 被験者には,自動車の運転経験豊富なプロドライバ6 名,運転免許を取得後2 年未満の運転初心者10 名,及び免許未取得者12 名を用いた。実験実施に先立ち,実験方法,予期される影響,人権の保護に関すること等について十分な説明を行った後,被験者から文書による同意を得た。
 ドライビング・シミュレータには,(株)日立ケーイーシステムズ製「アクセスマスターNew AM2330」を使用した。運転コースはカーブの多い山道で,トンネルが複数あり,一部に無舗装区間を有するものとした。日中晴天下に運転するものとし,自車の前後及び対向車線に乗用車,トラック,バイクを走行させた。1 回の運転時間は約3 分とした。
 モーションベースにより被験者に揺動(ピッチ運動)及び振動の各々を付加した場合としなかった場合の4 種類の条件下で運転を行わせた。運転中に感じる「現実感」,「走行感」及び「快適さ」をScheffé の一対比較法を用いて被験者に評価させた。ここで,「現実感」とは実際に自動車に乗っているような感覚,「走行感」とは車で走って前方に進んでいるような感覚,「快適さ」とはシミュレータを運転している時の心地良さ・気持ち悪くなさのことと定義した。4 条件下で順次運転させ,連続する運転の間で上記3 項目について,−2〜+2 の5 段階で比較させた。1 回の実験で12 回の比較を行わせ,プロドライバ258 比較,運転初心者360 比較,免許未取得者288 比較を実施した。3 群の被験者毎に範疇判断の法則及び比較判断の法則に基づいて「現実感」,「走行感」及び「快適さ」を距離尺度化した。
 3. 結果
 運転経験の異なる3 群のいずれにおいても,揺動や振動を加えると現実感と走行感は有意に上昇した。一方,快適さについては,プロドライバでは振動を加えると幾分上昇したが,揺動を付加すると低下した。実車で経験する加速度との相違を感じることが原因と考えられる。運転初心者では,振動や揺動を加えても有意差は得られなかったが,快適さがわずかに上昇した。免許未取得者では,揺動を加えても快適さはほとんど低下しなかったが,振動を付加すると有意に低下した。以上の結果から,経験豊富なドライバの安全運転講習や高齢者講習などには振動付加,初心者の安全運転講習や違反者講習などには揺動と振動付加,免許未取得者の自動車学校教習などには揺動付加が,快適さを損なうことなくドライビング・シミュレータのリアリティを高めることに有効であると考えられる。