宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 84, 2009

一般演題

12. ETCO2分圧の変化に見る車酔低減ディスプレイの効果

中西 窓花1,森本 明宏1,2,辻 仁志1,増田 修1,井須 尚紀1

1三重大学大学院 工学研究科
2パナソニック株式会社 オートモーティブシステムズ社

ETCO2 pressure recorded as an indicator of carsickness inhibition by onboard TV

Madoka Nakanishi1, Akihiro Morimoto1,2, Hitoshi Tsuji1, Osamu Masuda1, Naoki Isu1

1Faculty of Engineering, Mie University
2Automotive Systems Company, Panasonic Corporation

 1. はじめに
 車内でTV 視聴を行うと運動情報が視覚からは得られないため,TV 視聴を行わない場合と比べて車酔不快感が約2 倍に強まる。そこで,自動車の運動情報を視覚から与えるように視運動刺激をTV 映像に付加し,車酔を低減しようと考えた。車の動きの大部分を占める前後加速度,遠心加速度,Yaw 角速度を入力とした対策を4 種類考案し,車酔不快感及び呼気終末二酸化炭素(ETCO2)分圧の変化からその効果を測った。
 2. 対策
 映像表示部全体の80% にTV 映像を表示し,残りの周囲20% に背景となる映像を表示した。その背景映像を前後加速度対策では前後加速度に応じてピッチ方向に,遠心加速度対策では遠心加速度に応じてロール方向に各々傾斜させた。Yaw 角速度対策ではYaw 角速度に応じて背景映像を水平フローさせた。また,複合対策ではこれら3つの動き全てを組み合わせた。
 3. 実験方法
 被験者は20 歳前後の健康な男女52 名で,総試行数は188 回であった。被験者に対し,実験の主旨,手順,予期される影響,人権の保護などの十分な説明を予め行い,書面による承諾を得た。
 実験車両には3 列シート8 人乗りのミニバンを使用し,2〜3 列目に最大4 人の被験者を座らせた。1 回の実験で,1 周約3 分のカーブの多い山道を7 周走行した。実験時の条件は,各対策を施した映像の視聴,対策を施していない映像の視聴,視聴なしの計6 種類のうちのいずれかとした。TV の表示部分の大きさは横24.3 cm,縦13.7 cm で,解像度は800×480 であった。また,被験者からTV までの距離は平均60 cm で,水平視角は23°であった。音源には車内後方上部に設置した2 台のスピーカーを用いた。
 走行前10 分と5 分,走行開始から1 分毎に不快感の強度を0(平常)〜10(嘔吐寸前)の11 段階で被験者に答えさせた。評定尺度法による主観的評価の結果を,範疇判断の法則に基づいて距離尺度化した。また,走行前10 分から走行開始後21 分の間,呼吸中の二酸化炭素分圧をメインストリーム方式で測定した。測定器から出力されるアナログ信号をA/D 変換器により,分解能12 bit,50 Hzでサンプルし,一呼吸毎の呼気二酸化炭素分圧の最大値をETCO2分圧として求めた。
 4. 結果
 全ての対策において,対策なしよりも不快感を低減できた。特に,Yaw 角速度対策で最も高い31% の不快感改善効果が得られた。また,不快感強度が大きくなるとETCO2分圧が低下する傾向がみられた。実験条件毎にETCO2分圧を平均したところ,Yaw 角速度対策は対策なしよりもETCO2分圧の低下を抑制した。 Yaw 角速度対策は回転ベクションで動き情報を与えたため,自己運動感覚を誘起しやすく,車酔低減につながったと考えられる。また,ETCO2分圧が低下しても不快感が変化しない被験者もいたが,自覚症状がないものの車酔は既に発症していたと考えられる。