宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 83, 2009

一般演題

11. 起立時の下肢周囲長変化に及ぼす下半身陽圧負荷(LBPP)の影響

河合 康明,松尾 聡,大西 弘志

鳥取大学医学部適応生理

Effect of LBPP on leg circumferences during upright standing

Yasuaki Kawai, Satoshi Matsuo, Hiroshi Ohnishi

Department of Adaptation Physiology, Faculty of Medicine, Tottori University

 下半身陽圧負荷(LBPP)は,被験者の下半身を入れた袋内圧を大気圧より高い圧(陽圧)にすることにより浮力を得て,被験者自身が支える見かけの体重を軽減することができる。本法を用いることにより,リハビリテーションにおける歩行訓練を早期に開始することを目的としている。本研究では,LBPP 負荷時の循環動態の変化,特に下肢の体液分布に焦点を絞り検討を加えた。
 【方法】 被験者(男性8 名)を背臥位で5 分間寝かせた後,起立直後に下肢周囲長(大腿,下腿中央,足関節直上部)を計測した。その後,10 分間隔で測定を繰り返し,下肢周囲長が一定値に達した後,LBPP を10 分間負荷し,その直後に測定を行い,LBPP 負荷前の値と比較した。
 【結果】 下肢周囲長は,起立直後の値(基準値)から徐々に増加し, 30-40 分後にプラトーに達した。 大腿周囲長は,基準値の40.4 mm から最大値41.1 mm へ,下腿中央では36.6 mm から37.3 mm へ, 足関節直上部では22.4 mm から22.6 mm へ増加した。10 分間のLBPP 負荷後,大腿部では0.3 mm 減少して40.8 mm になったが,下腿中央ならびに足関節直上部では,減少傾向は示したものの統計学的に有意な減少は認められなかった。
 【考察】 臥位から立位に体位変換すると,静水圧の影響により下肢の毛細血管内圧が上昇し,血管外への水分ろ過量が増え,下肢周囲長は増加する。この過程は30-40分の時間経過で平衡に達し,周囲長は一定値になる。LBPP 負荷は,毛細血管における経壁圧較差を減じ,水分ろ過量が減少し,組織間隙に貯留する水分量を減ずることにより,下肢周囲長を減少させることが示唆された。この現象は下腿より大腿で顕著であり,静水圧の影響がより大きい下腿では,LBPP 負荷による経壁圧較差減少の影響が及び難いものと推測された。
 【結語】 LBPP 負荷とトレッドミル歩行による筋ポンプ作用を組み合わせれば,下肢の浮腫に対する有効な治療手段となるかもしれない。