宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 82, 2009

一般演題

10. 抗重力活動抑制によるヒトヒラメ筋萎縮防止策としての現行の脚運動処方は適当か?

岡部 洋興1,大平 宇志2,河野 史倫3,尾家 慶彦3,藤田 諒3,野村 幸子3,大平 友宇4, 大平 充宣2,3

1国士舘大学文学部
2大阪大学生命機能研究科
3大阪大学医学系研究科
4国士舘大学体育学部

Is the current exercise prescription useful as countermeasure against soleus muscle atrophy in human ?

Hirooki Okabe1, Takashi Ohira2, Fuminori Kawano3, Yoshihiko Oke3, Ryo Fujita3, Sachiko Nomura3, Tomotaka Ohira4, Yoshinobu Ohira2,3

1Faculty of Letters, Kokushikan University
2Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University
3Graduate School of Medicine, Osaka University
4Faculty of Physical Education, Kokushikan University

 宇宙飛行に伴う骨格筋の萎縮は,長期間の有人宇宙飛行を実現する上で解決が急がれる問題の一つである。現在,宇宙飛行士は筋萎縮防止策として,1 日2 時間程度のトレーニングを行っている。しかし,地球へ帰還後,行動失調を訴える飛行士もいることから,トレーニング効果は十分得られているとは言えない。そこで,より効果的なトレーニング様式やトレーニング特異的な筋活動の個人差を解明する必要がある。今回我々は,宇宙飛行中,特に萎縮が顕著なヒラメ筋を対照に実験を行った。19〜50 歳の健常成人男性を被験者として,@ トレッドミル歩行運動: 4 km/hr( 0%, 6%, 10%, 15% 傾斜),6 km/hr( 0%,6%, 10%, 15% 傾斜),A 自転車エルゴメータ運動: 負荷70 W( pedaling by arch or front sole),負荷130 W( pedalingby arch or front sole),負荷170 W( pedaling by arch or frontsole),B 膝伸展レジスタンス運動: アイソメトリック(push up by whole sole or front sole),スクワット( push upby whole sole or front sole) 中のヒラメ筋筋電図を測定した。
 その結果,トレッドミル歩行中,踵から着地する歩行パターンの被験者は,速度および傾斜に依存したヒラメ筋筋活動の増加が観察された。一方,front sole から着地する歩行パターンの被験者は,遅いスピードで平坦を歩行した時に高いヒラメ筋筋活動が観察され,スピードや角度が増すと減少するという現象が認められた。自転車エルゴメータ運動では,全ての被験者で負荷依存的にヒラメ筋筋活動が増加した。自転車エルゴメータ運動および膝伸展レジスタンス運動では,運動フォームにおける個人差は観察されず,通常のpedaling やpush up 様式で行うのに比べ,front sole でのpedaling またはpush up により意識的な足関節の底屈を伴った場合に全ての被験者でヒラメ筋筋活動が増加した。
 以上の結果から,ヒラメ筋への効果を目的とした運動処方としては,足関節の意識的な底屈が効果的であり,トレッドミル歩行運動による処方には,歩行パターンの個人差を考慮する必要があることが明らかとなった。