宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 81, 2009

一般演題

9. 骨格筋再生におけるIL-6 受容体阻害剤(MR16-1)及び温熱刺激効果の検討

藤田 諒1,大平 宇志2,上 勝也1,尾家 慶彦1,野村 幸子1,河野 史倫1,大平 充宣1,2

1大阪大学医学系研究科
2大阪大学生命機能研究科

The effects of the IL-6 inhibition & heat treatment on the regenerating skeletal muscle

Ryo Fujita1, Takashi Ohira2, Katsuya Kami1, Yoshihiko Oke1, Sachiko Nomura1, Fuminori Kawano1, Yoshinobu Ohira1,2

1Graduate school of Medicine, Osaka University
2Graduate school of Frontier Biosciences, Osaka University

 【背景および目的】 宇宙への長期滞在により引き起こされる骨格筋の萎縮に対して,温熱刺激や炎症性サイトカインであるIL-6 の抑制によって萎縮が軽減される可能性が報告されている。萎縮と同様,サテライト細胞の活性化や筋線維の肥大を必要とする骨格筋損傷に関して温熱刺激に関してはいくつかの先行研究によりその有効性が証明されている。しかしながら,IL-6 の阻害あるいは,温熱刺激との併用による筋再生促進効果は検討されていない。そこで,本研究は損傷骨格筋の再生にIL-6 受容体阻害剤であるMR16-1 投与,温熱刺激,さらにその併用が有効か否かを検討することを目的とした。
 【方法】 筋損傷は10 週齢の マウス(C57BL/6JJc1)の前脛骨筋(TA)にカルディオトキシン(CTX)を10 μl 注入することにより作成した。通常のケージ飼育を行った群をControl( CONT),CTX 注入後1 日目にTA を摘出した群をCTX-R1, 7 日目に摘出した群をCTX-R7 とした。また温熱刺激を与えた群をCTX-Heat, MR16-1 を投与した群をCTX-MR,温熱刺激,MR16-1 の両方の処置を与えた群をCTX-MR-Heat とし,損傷後 7 日目にTA を摘出した。温熱刺激は,損傷後1, 3, 5 日目に意識下のマウスを42℃ のチャンバー内に入れ,60 分間暴露することによって行った。MR16-1 の投与に関しては,CTX 注入後直後に腹腔内に2 mg 投与した。
 【結果および考察】 筋湿重量は,CTX-R1 で増加する傾向にあった。損傷による浮腫の影響であると考えられる。損傷後7 日目に筋を摘出した4 群(CTX-R7, CTX-Heat,CTX-MR, CTX-MR-Heat)では萎縮する傾向が見られた。Hematoxylin and Eosin(HE)染色により損傷,再生状態を病理学的に評価した結果,CTX-R1 において炎症細胞の湿潤,膨張した筋線維が多数観察され,損傷後7 日目に筋を摘出した4 群(CTX-R7, CTX-Heat, CTX-MR, CTXMR-Heat)全てにおいて中心核を有する筋線維が見られた。しかしながら,HE 染色による評価では,それぞれの処置による筋再生促進効果は見られなかった。免疫組織学的評価の結果,Myogenin 陽性細胞の数が温熱刺激によって増加する傾向が観察された。またCTX-MR において特にDesmin 陽性,Dystrophin 陽性細胞の数が増加しているのが観察されたことから,温熱刺激,IL-6 の阻害は筋再生に何らかの有効な効果をもたらしている可能性が示唆された。損傷した骨格筋の再生にはサテライト細胞の活性化が必須のプロセスであることから温熱刺激やIL-6 の阻害がこのプロセスに影響を及ぼした結果なのか,あるいは温熱刺激で示されているような細胞保護作用を示した結果なのか,今後さらに詳細な検討が必要である。本研究は日本学術研究会科学研究費補助金( 基盤S,19100009)の助成を受けて実施された。