宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 80, 2009

一般演題

8. 模擬微小重力暴露後に生ずる骨代謝デコンディショニングに対する対抗措置の効果

西村 直記1,岩瀬 敏1,塩澤 友規2,菅屋 潤壹1,高田 真澄1,犬飼 洋子1,佐藤 麻紀1, Dominika Kanikowska1,鈴木 里美3,石田 浩司4,秋間 広4,片山 敬章4,平柳 要5, 増尾 善久6,間野 忠明7

1愛知医大・生理2
2青山学院大
3愛知医大・看
4名大・総合保健体育科学センター
5日大・医
6早稲田大
7岐阜医療科学大

Effect of countermeasure on bone metabolic deconditioning caused by microgravity exposure

Naoki Nishimura1, Satoshi Iwase1, Tomoki Shiozawa2, Junichi Sugenoya1, Masumi Takada1, Yoko Inukai1, Maki Sato1, Dominika Kanikowska1, Satomi Suzuki3, Koji Ishida4, Hiroshi Akima4, Keisho Katayama4, Kaname Hirayanagi5, Yoshihisa Masuo6, Tadaaki Mano7

1Dept. Physiol., Aichi Med. Univ.
2Aoyama Gakuin Univ.
3Sch. Nurs., Aichi Med. Univ.
4Research Center of Health, Physical Fitness and Sports Nagoya Univ.
5Dept. Hygiene, Nihon Univ. Sch. Med.
6Waseda Sport Science Research Center
7Gifu Univ. Med. Sci.

 【はじめに】 宇宙滞在のような微小重力暴露により,循環系,筋・骨格系および骨代謝系など様々なデコンディショニングが起こることが知られており,これらを総称して「宇宙デコンディショニング」と呼ぶ。我々は,これまで棒状回転体(直径4 m)を回転させることにより生ずる遠心力を利用した人工重力負荷装置に自転車エルゴメータを具備した装置を考案し,この装置を用いた重力負荷と運動負荷の組み合わせが,宇宙デコンディショニングに対する対抗措置として有用であるか否かについて検討してきた。本研究は,20 日間の模擬微小重力暴露後にみられる骨代謝デコンディショニングに対して,我々が行ってきた対抗措置が有効であるか否かについて検討した。
 【方法】 被験者として実験参加の同意が得られた健康な成人男性12 名(年齢: 24.0±5.0 歳,身長: 168.7±3.6 cm,体重: 65.1±8.2 kg)を対照とした。本研究を行うにあたり,愛知医科大学医学部倫理委員会の承認を得た。すべての被験者には頭部を−6°下げた状態にセットしたベッド上に横たわらせ,食事,排尿および排便などのすべての日常生活をその状態で行わせた(模擬微小重力暴露)。微小重力暴露中は,テレビ・ビデオ鑑賞,読書,携帯型ゲームなどは自由に行わせ,被験者のストレス緩和に努めた。1 日の食事摂取量は2,300 kcal とし,水分摂取量は,脱水を回避させるために前日の尿量と同量を摂取させた。12名の被験者の内,6 名の被験者に対抗措置を連日(積算時間30 分/ 日)行わせ,残りの6 名は微小重力暴露のみ(対照群)とした。対抗措置群に対する人工重力負荷は1.0 G,運動負荷は60 W とし,被験者の同意が得られれば0.2 Gもしくは15 W ずつ負荷を増加させた。
 【結果および考察】 骨吸収マーカーである尿中デオキシピリジノリン(DPD)排泄量を微小重力暴露前後で比較すると,対照群では微小重力暴露後に44.2±10.0% 増加したのに対し,対抗措置群では18.3±2.5% と有意に低値(P<0.05)を示した。また,同じく骨吸収マーカーである尿中I 型コラーゲン架橋C-テロペプチドは,対照群では有意に増加した(P<0.05)のに対し,対抗措置群では微小重力暴露前後でほとんど変化がみられなかった。一方,骨形成マーカーである骨型アルカリフォスファターゼ(BAP)においても,対照群では微小重力暴露後に増加したのに対し,対抗措置群では微小重力暴露前後でほとんど変化がみられなかった。一般的に,骨形成は骨吸収に刺激されることで開始されることから,対照群での微小重力暴露後のBAP 増加はDPD 増加に刺激された結果であると推察される。近年,交感神経の働きが骨代謝に関与するという報告がみられる(Flier JS : 2002)。本研究で測定した骨格筋支配の筋交感神経が骨代謝に関与するか否かは明らかではないが,対照群では模擬微少重力暴露後に筋交感神経活動の賦活化とともにDPD 排泄量の増加がみられたが,対抗措置群ではそれが抑制される傾向にあった。以上の結果から,本研究で用いた人工重力負荷と運動負荷が,模擬微小重力暴露後の骨代謝デコンディショニングに対する対抗措置として有効であることが示唆された。また,模擬微小重力暴露後にみられる骨代謝デコンディショニングの機序には,交感神経活動の賦活化が関与していることが推察される。