宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 78, 2009

一般演題

6. 機内騒音が乗客におよぼす精神生理学的影響についての検討

加藤 みわ子1,伊藤 康宏2,清水 遵3

1愛知淑徳大学大学院心理学研究科
2藤田保健衛生大学大学院生理機能学
3愛知淑徳大学大学院生理心理学

A study on the psychophysiological influence of the noise on passengers in the airplane

Miwako Kato1, Yasuhiro Itoh2, Jun Shimizu3

1Graduate School of psychology Studies, Aichi Shukutoku University
2Fujita Health University Graduate School of Health Sciences
3Aichi Shukutoku University Faculty of Communication Studies

 【はじめに】 航空機による移動が日常的となった近年,新機種が導入される度に搭乗体験の感想などを耳にする機会がよくある。このときに必ず挙げられる項目に,機内の騒音がある。運航中の機内では,おおよそ70〜95 dBの騒音が記録されている。環境省によるストレス調査においても騒音は大きく取り扱われ,騒音が重要なストレッサーのひとつであることは周知の事実である。このことからも,機内の騒音が,搭乗者の乗り心地を左右する要因の一つであることがわかる。そこで,本研究では,騒音が人におよぼす精神生理学的影響について,実験的に基礎的な検討をした。
 【方法】 実験参加者: 実験には,健常な大学生45 名(女性40 名,男性5 名。平均年齢21.5±0.7 歳)が参加した。全ての実験参加者に,本実験の意義などを充分に説明し,実験参加に承諾を得た。
 実験手続き: 実験参加者は全員,20 分間の座位安静の後,気分評定への回答と唾液採取を求められた。その後,90 dB のホワイトノイズと人の話し声や足音からなる騒音環境がつくられた。参加者は,騒音環境下で,壁に向かって両脚をかかえて座った姿勢を5 分間保った。その後,その姿勢のままで,騒音暴露終了直後,および10 分後に,気分評定と唾液採取をおこない実験を終了した。得られた唾液からは,コルチゾール濃度を酵素免疫抗体法にて測定・定量した。気分評定は,アフェクトグリッド法とPOMS 法を用いておこなった。POMS 法による気分評定は,騒音暴露前と暴露終了10 分後の2 回のみおこなわれた。
 【結果と考察】 POMS 得点を除く各測度に関してそれぞれ,一元配置(騒音前・直後・10 分後)の分散分析をおこなった。尚,コルチゾール濃度に関しては,唾液量が測定可能量に満たなかった2 名を分析から除外した。分散分析の結果,要因の効果が有意であった{ F(2,84)=3.31, p<0.05 }。多重比較によれば,騒音直後よりも10分後に濃度が低下したことが明らかとなった(MSe=0.02,p<0.05)。アフェクトグリッド得点に関しても,同様の分析をおこなった結果,要因の効果が有意であり{ F(2,88)=4.44, p<0.05 },騒音前および騒音直後よりも10 分後に快適感得点が有意に増加したことが明らかとなった(MSe=1.36, p<0.05)。POMS 法による気分評定に関しては,項目ごとに騒音暴露前と暴露終了10 分後をPaird-t検定にて群内比較した。その結果,緊張・不安{(t 44)=4.50,p<0.001},抑うつ{(t 44)=2.78, p<0.01},怒り・敵意{ t(44)=2.37, p<0.05}および混乱{(t 44)=3.37, p<0.01}の項目について,それぞれ有意な差が認められ,騒音暴露後に気分が改善したことが明らかとなった。本研究では,生理指標では騒音から解放された暴露終了10 分後に明らかな変化が認められた。心理指標に関しても同様の変化が認められた。これらの結果から,航空機内のような行動を制限された状態では,騒音が大きなストレス要因となり,騒音からの解放が気分改善を伴ったストレスの軽減をもたらす可能性が示唆された。