宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 76, 2009
一般演題
4. 非持続性心室頻拍精査中の電気生理学的検査で診断された心室細動のパイロットの一例
久田 哲也1，宮川 貴史1，辻本 哲也1，前川 孝一3，田村 信介4，桒田 成雄3，酒井 正雄3，緒方 克彦1，櫻井 裕1
1防衛医科大学校
2小松基地衛生隊
3航空自衛隊航空医学実験隊
4国土交通省航空局技術部
Ventricular Fibrillation Case in Japan Air Self-Defense Force Pilot
Tetsuya Hisada1，Takashi Miyagawa1，Tetsuya Tujimoto1，Koichi Maekawa3，Shinsuke Tamurasup>4，Naruo Kuwa da3，Masao Sakai3，Katsuhiko Ogata1，Yutaka Sakurai1
1National Defense Medical College
2Medical Squadron, Komatsu Air Base
3Japan Air Self Defense Aeromedical Laboratory
4Personnel Licensing Division, Civil Aviation Bureau, Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism
心室性不整脈の持続は，血行動態に影響し操縦中のパイロットが操縦不能に陥る危険がある。従来，航空自衛隊は抗不整脈薬内服中のパイロットの航空機搭乗を許可しておらず，心室性不整脈のパイロットは複座機限定等の業務制限や航空業務不可となってきた。近年，カテーテル診断・治療の発達により持続性不整脈が根治でき，航空業務に復帰する例が出ているものの，本治療が航空業務復帰を保証できるものではない。我々は，非持続性頻拍（nsVT）のカテーテルアブレーション治療目的で電気生理学的検査（EPS）を行ったところ，別の重症な心室 細動（Vf）が診断された症例を経験したため報告する。40 歳代男性，単座機種の戦闘機パイロット，航空身体検査の心電図検査で心室性期外収縮が多発し，24 時間ホルター心電図検査で4 連発のnsVT を認めた。再検査でも同様の所見であったため，医学適性審査（ウェーバー審査）において複座機限定の業務制限となった。単座機種業務への復帰を望む本人の希望でnsVT に対するカテーテル治療目的のEPS を行ったところ，右心室及び右心室流出路からの早期刺激によりnsVT とは別のVf が誘発された。冠動脈造影やMRI 検査などで異常を認めなかったため， ピルジカイニド投与による薬剤負荷心電図検査を行ったところ，V1 及びV2 誘導でcoved 型のST 上昇を認めた。複数専門医によりBrugada 症候群compatible と診断され，最終的に医学適性審査において航空業務不可となった。社会的（航空医学的）適応により不整脈に対するEPS 及びカテーテルアブレーションを検討する場合には，本治療により根治し得た場合の利点に加えて，根治不可能な場合や本症例のように稀に別の重篤な不整脈が診断される場合がある可能性についてのインフォームドコンセントが，臨床的及び航空医学的な側面から必要であると思 われる。