宇宙航空環境医学 Vol. 46, No. 4, 73, 2009

一般演題

1. 宇宙医学生物学の視点からのアウトリーチ

新堀 真希,須藤 正道,向井 千秋

独立行政法人宇宙航空研究開発機構 宇宙医学生物学研究室

Space Biomedical Science in Public Outreach

Maki Niihori, Masamichi Sudoh, Chiaki Mukai

Space Biomedical Research Office, Japan Aerospace Exploration Agency

 “アウトリーチ” は,さまざまなレベルでの活動が含まれ,一般に広く情報提供するということを目的に行われる活動である。近年,科学の分野で盛んにアウトリーチという言葉が使われるようになってきた。この背景には,先端科学にも社会への貢献が重要であるという認識が高まってきたことが考えられる。宇宙科学の分野においても,その関心の高さに伴い,社会では成果報告を公開してほしいという要求が高まっている。このことは,まさに「一般に広く情報提供する」というアウトリーチの性質と,人々からの要求とが一致していることを示している。
 宇宙医学生物学研究室は,その研究活動の一環として,教育活動への参加や,展示室の整備を通して,有人宇宙活動の基盤となる宇宙医学生物学研究を広く世間に周知し,その重要性と地上生活への還元をアピールする活動を展開していく予定である。その一つとして,これまでの研究成果を発表するため,展示室の整備を進めている。
 本年10 月17 日に開催された筑波宇宙センターの特別公開では,「若田宇宙飛行士の国際宇宙ステーションでの生活」,「軌道上医療機器の変遷」,「今後予定されている軌道上実験」,「地上における宇宙医学生物学研究」,「宇宙医学生物学研究のモデル生物としてのメダカ」,「新たな研究テーマへの挑戦〜月面開拓医学〜」として,研究室での取り組みを,パネルや映像,モデル等を用いて紹介した。当日は,来場者に対して,実際に研究に携わっている関係者が説明員として解説を加え,理解増進に努めた。
 展示内容としては,パネルなどの“静” の展示物よりも,“動” 要素を含む展示の方が,一般来場者の関心を強く集める様子が伺える。実際に,ビデオ映像やメダカの発生の様子を捉えた顕微鏡からの映像を放映しているモニターの前には,人が集まりやすい傾向が見られた。今後は,特別公開時だけでなく,定常的に展示室を開放し,解説員がいない場合でも来場者が理解できるよう展示方法・内容を工夫し,筑波宇宙センターへの訪問者に宇宙医学生物学への理解と興味を深めてもらえるような展示内容の充実化を図っていきたい。
 宇宙医学生物学研究室でのアウトリーチ活動は始まったばかりである。試行錯誤の中で,質の高い情報提供を進めいくと同時に,そのアウトリーチや教育活動を学術的に発展させる方法・手段を開発していきたいと考えている。