宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 180, 2008

職場の新型インフルエンザ対策

濱田 篤郎

労働者健康福祉機構 海外勤務健康管理センター

Preparing workplaces for an influenza pandemic

Atsuo Hamada

Japan Overseas Health Administration Center

2003年冬からH5N1型の鳥インフルエンザウイルスが家禽や野鳥の間で流行しており,ヒトの患者も2008年9月までに世界15カ国で387名が確認され,うち245名が死亡する事態になっている。こうした状況下,H5N1型ウイルスがヒトに適応し,新型インフルエンザとして流行することが危惧されている。
 新型が流行した場合の人的被害として,日本政府は感染者数が人口の25%,致死率が最大2%(64万人)と予測している。さらに,人的被害だけでなく経済的被害もかなりの規模にのぼることが予想される。こうした被害に対処するため,今年の7月に厚生労働省は「職場や事業所での新型インフルエンザ対策ガイドライン案」を提示した。このガイドラインによれば,職場での新型インフルエンザ対策として,職員を新型の感染から守る感染予防対策とともに,経営や社会的使命を守る事業継続計画を同時に進めていく必要があるとしている。航空業界においても両面にわたる対策が期待されているところである。
 さらに,海外に職員を派遣する企業では,国内以上に充分な新型インフルエンザ対策の構築が求められている。外務省は,新型が発生した時点で,国民に不要不急の海外渡航自粛を呼びかけるとともに,海外在留邦人に早期の帰国を促す勧告を行う予定にしているが,企業にとって海外派遣職員を帰国させるのは,経営上の大きな損出になる。こうした事態に対処するため,海外勤務健康管理センターでは海外派遣企業の新型対策を支援するガイドラインを発表している。この中で一番に強調しているのは,充分な医療を受けることができない国に職員を残留させる際には,企業が自己責任で対処するという点である。その場合には,残留する職員に抗インフルエンザ薬を事前処方し,発病時に自己判断で服用させる方法(自己治療)も検討する必要があるだろう。
 このように航空業界にとっては,新型インフルエンザの流行が経営にも大きく影響することから,その対策を構築するためには,職場の医療職だけでなく経営トップや危機管理担当者など幅広い人材を集めて,総合的な対策を立てるようにしていただきたい。とくに航空業界には国際交通を維持するという社会的使命もあり,この点を考慮した事業継続計画が期待されているところだ。