宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 177, 2008

SARSを振り返って

牧 信子

鞄本航空インターナショナル 健康管理室 

How to take steps to prevent in-flight transmission of SARS

Nobuko Maki

Japan Airlines International Co., Ltd.

SARSは,2002年末頃に中国広東省付近で発生し,2003年3月には,またたくまに世界各地に感染が拡大した。航空機内での感染例が報告された為に,航空会社もその影響を直接受けることになった。しかし,2003年3月15日にWHOの緊急旅行勧告が発出されて以降は,伝播地域の検疫で発症者が渡航しないように,体温測定などの措置を講じたため,航空機内でSARSに感染する危険性は極めて低くなり,やがてSARSの流行も沈静化していった。
 新型インフルエンザ発生時の対応の参考になると思われる,SARS流行期間中に航空会社が行った対応を報告した。
 まず,航行中の機内で発熱患者が認められた場合に,SARSを疑うかどうかのチャートを作成した。次に機内でSARSを疑う病人が発生した場合,機内における二次感染予防のための機内対応を定めた。1. 病人を担当する客室乗務員を特定し,その乗務員はフェイスガードつきマスクと手袋を着用する,2. 病人には医療用マスクの着用を依頼し,3. 病人と他の旅客は極力離し,4. トイレは専用とする。5. 手洗い・除菌スプレーを使用する。6. 降機後,機内を消毒する。
 2003年3月13日以降JALグループ便の搭乗者のうち,SARSを疑われた発熱ケースは14例であった。5例は機内で発熱などの症状が見られたが,検疫でSARSは否定された。降機後発症し検疫などより連絡を受けたケースが9例であったが,4例はSARSは否定された。残り5例は乗務員等の健康調査を施行したが,うち3例はSARSは否定され,結局2例がSARS疑いあるいは可能性例であった。発症の様式は機内ですでに発熱が見られた症例が2例,降機後に検疫の体温測定で発熱を指摘された症例が4例であった。SARS発症例の2例はいずれも空港を離れてから発症が確認されたものであり,搭乗中の機内での二次感染の発生は無かった。
 航空会社の行ったSARS対策は 1. 感染患者を搭乗させない。2. 機内における二次感染予防であったが,大切なことは発症者を搭乗させないことであり,SARSの経験から搭乗前のスクリーニングが有用であると思われた。