宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 170, 2008

宇宙航空医学認定医セミナー

「フライト・サージャンの役割と要請」
2. 宇宙航空研究開発機構(JAXA)におけるFSの役割とその養成について

立花 正一

宇宙航空研究開発機構 有人宇宙技術部

Flight Surgeon of JAXA : its role and training

Shoichi Tachibana

Japan Aerospace Exploration Agency, Human Space Technology and Astronauts Department

宇宙飛行士が宇宙環境の中で生活し任務を遂行する際には,微小重力による骨・筋量の低下,宇宙放射線による被曝,隔離閉鎖環境に居住する心理的ストレスなど,様々な医学的課題に対処しなければならない。これらに対処し飛行士の健康を守るために,FS(フライトサージャン)を中心として,放射線,環境,精神心理,筋力トレーニング,栄養などの専門家からなる健康管理チームが編成されている。国際宇宙ステーションは5つの宇宙機関(15カ国)の共同国際プロジェクトなので,各宇宙機関に同様の健康管理チームが編成されて,協議の場(3つの国際ボード及びパネル)を設けて密接に連絡・調整を行っている。この共同活動は次第に効率的・効果的になりつつあり,IMG (Integrated Medical Group)として統合化が進んでいる。
 JAXAにおけるFSはこの健康管理チームの中心として,飛行士の選抜や地上訓練時から,宇宙飛行ミッション中,さらには飛行後のリハビリまで,長期間に渡り飛行士の健康管理に関わることになる。飛行士及びその家族の日常の健康相談,年次医学検査の実施と取りまとめ,検査結果の国内・国際審査ボードへの提出,各種地上訓練(サバイバル,耐G訓練,水中での船外活動模擬訓練など)への立会い,打ち上げや着陸地点での健康管理,飛行中のミッション・コントロール・センターでのモニターや支援などがFSの重要な任務である。
 FSはJAXA内の規程で定義し,副理事長が委員長のFS審査委員会で資格審査を行い認定している。資格は3年間有効。ISSプログラムで活動するFSはさらにISSに関する国際的な医学ボードであるMSMB(多数者間宇宙医学委員会)で認定を受けることになる。
 FSの養成はこれまでは,国内で一定期間実務研修を行った後に,アメリカの航空宇宙医学のマスターコース(ライト州立大学やテキサス大学ガルベストン校)に留学させていた。最近しばらくはFSの新規採用はないが,今後採用したFS候補の養成方法については,効率的に訓練が行えるように見直しを検討している。