宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 167, 2008

教育講演

航空身体検査における循環器疾患の位置づけ

笠貫 宏

東京女子医科大学 名誉教授
早稲田大学理工学術院 教授

Cardiovascular disease and Aviation medical examination

Hiroshi Kasanuki

Professor Emeritus of Tokyo Women's Medical University
Professor, Faculty of Science and Engineering Waseda University

現代社会において航空運輸の重要性は増大の一途にあり,航空機の安全な運航の確保が強く求められている。そのなかで飛行中の急背機能喪失(インキャパシテーション)は航空の安全にとって重大な脅威であり,そのリスクを排除するために行われる乗員の航空身体検査証明は極めて重要な意義を有する。その航空身体検査の目的は 乗員が乗務を遂行するために必要な心身の状態を保持しているか否か検査することであり,航空医学的適性は “心身状態が @ 飛行のあらゆる状況下で安全に飛行するために必要な水準以上である,A 有効期間中引き続き維持していると予想される。” と記載されている。
 心臓は1分間60-100回規則正しく拍動し続け,1回100 ml,1日1万lの血液を拍出する。その停止は5-10秒で眩暈,15-20秒で意識消失,2-3分で突然死を来たしうる。それこそ心臓病の特徴であり,その心臓病の発症・増悪には社会・心理的ストレス,自律神経が大きく影響する。そのため医療技術が急速に進歩したとはいえ,心臓発作の予知・予防には大きな限界があり,循環器疾患に関する航空医学的適性の判断はきわめて困難な作業である。
 更にわが国では2007年以降,団塊世代の大量退職と航空需要の増大と併せて 乗員の安定的確保は急務となっている。そのため平成3年年齢上限を60歳から63歳未満へ,平成16年65歳未満まで延長されている(加齢乗員制度)。国際的な動向として2006年ICAO(国際民間航空機関)は年齢上限を60歳未満から65歳未満に延長した。循環器疾患の危険因子は加齢とともに増え,その頻度も増加する。
 そうした背景において航空身体検査における循環器疾患の位置づけと対応について考えてみたい。