宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 165, 2008

シンポジウム

「宇宙における長期滞在」
3. 宇宙長期滞在の医学的課題−運動器(骨組織を中心に)

重松 隆

和歌山県立医科大学 腎臓内科・血液浄化センター

Medical events with long-term stay at microgravity in bone mineral metabolism and muscle

Takashi Shigemastu

Division of Nephrology & Blood Purification Medicine, Wakayama Medical University

宇宙飛行士の承諾と協力のもとに骨・Ca代謝のデータを得た。血清補正Ca濃度は,地上帰還後の当日・2〜4日後・1週間後・1ヶ月後では血清Ca濃度は大きな変動は認めなかったが,宇宙飛行直後の2〜4日後・1週間後に尿中Ca排泄の増大を観察した。すなわち,尿中Ca排泄が亢進し(尿中にCaが漏れて)生体のCaバランスがマイナスとなり血清Caが低下したことが示唆される。特にCaを強制的に負荷し尿中へのCa排泄分画(FECa)を検討したところ,副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンDが同様にもかかわらず,飛行前に比べ飛行直後には尿中Ca排泄分画は上昇している事が明らかとなった。また同時期に骨吸収マーカーの亢進と筋逸脱酵素の上昇が認められた。
 以上より,血清Caや尿中Caの宇宙飛行前後の変化は,PTHや活性型ビタミンDなどの内分泌環境の変化よりも,腎臓における尿細管Ca再吸収能の変化が一義的に一過性に起こったと考えられる。原因は現時点では不明であるが,微小重力環境にて最も大きな変動を受ける臓器として骨組織が知られており,骨-腎臓の関係に何らかの変化が生じて腎臓における尿細管Ca再吸収能の変化が生じたのかもしれない。骨吸収抑制薬(ビスホスホネート)の改善効果はベッドレスト研究で明らかにされており期待でき,運動療法も骨・Ca代謝のみならず筋組織の維持も期待できる。