宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 164, 2008

シンポジウム

「宇宙における長期滞在」
2. 宇宙での生活について

多屋 淑子

日本女子大学家政学部被服学科

Living in Space

Yoshiko Taya

Department of Clothing Science, Faculty of Home economics, Japan Women's University

1. はじめに
 今や宇宙飛行士だけではなく民間人も宇宙に滞在する時代となっている。今後,国際宇宙ステーション(ISS)の長期滞在や月や火星に人が生活することを想定すると,現在の生活の安全性の保障に加え,心身の健康の維持や快適な生活が重要な課題である。極限環境で発生する諸々のストレスを軽減し,生活のアメニティを向上する生活関連の技術開発が必要である。
 2. 宇宙での生活支援研究
 宇宙における生活支援を目指し,宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙オープンラボ制度により「近未来宇宙暮らしユニット」を主宰し,産学官連携により宇宙での生活支援に関する研究活動を行っている。「近未来宇宙暮らしユニット」は,日本の優れた地上の生活関連の技術を融合し,異分野や異業種の交流を行いながら,様々な新しい宇宙化技術を開発し,宇宙飛行士の生活を,より安全に,より快適に,より楽しく,宇宙での生活を心身共に健康にすることを目指している。同時に,それらの技術を地上のいろいろな分野の生活支援にスピンオフし,地上と宇宙の生活支援を行うことを計画している。
 3. 船内服の研究開発
 一般に,宇宙での衣服と言えば,船外活動服がイメージされ,それは,宇宙飛行士が船外活動を行う際の生命維持に必要不可欠なものである。一方では,日常用の船内服も宇宙飛行士の毎日の心身の安全を保ち健康を維持するためには重要である。「近未来宇宙暮らしユニット」では,宇宙飛行士との意見交換や文献調査を行い,宇宙の生活に必要な船内服の要求項目を抽出し,大学の着心地研究を基礎とし,産学連携により新しい宇宙仕様の素材開発,微小重力環境下の中立姿勢に適したパターンの製作,新しい縫製技術(無縫製技術),新しい面ファスナーの開発を行い,着用中の衣服の身体への負荷を最小化し,様々な活動に応じた熱水分移動を考慮し,清潔で着心地の良い船内服を開発した。これらは,地上での着用評価実験や素材性能の評価を行い,宇宙における短期ミッションにおいては清潔の維持と身体からの熱水分移動,および制電性等の性能が十分に安全に快適に保障できることを確認した。さらに,開発した船内服(J-WEAR)は,2008年3月と6月に日本の実験モジュール(JEM/通称: Kibo」きぼう)の建設を開始した土井隆雄宇宙飛行士によるSTS-123ミッションと星出彰彦宇宙飛行士によるSTS-124ミッションに搭載され,軌道上で着用評価が行われた。それにより,今まで地上の研究では解明不可能であった多くの知見を得ることができ,それらを反映した短期ミッション用の船内服を産学官連携にて完成した。
 4. さいごに
 宇宙の生活支援研究はまだ始まったばかりである。今後の長期ミッションのためには,さらなる研究の継続が必要である。2009年2月には若田飛行士による国際宇宙ステーションの長期滞在が予定されている。月や火星を見据えて,衣服に限らず,生活環境を安全に快適にする技術開発が益々必要とされるであろう。