宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 161, 2008

一般演題

47. 蓄積的な疲労感が7° Head-down tiltにおいて酸味閾値におよぼす影響

加藤 みわ子1,伊藤 康宏2,清水 遵3,永 忍夫2,長岡 俊治2

1愛知淑徳大学大学院心理学研究科
2藤田保健衛生大学・院・生理機能学
3愛知淑徳大学・院・生理心理学

The cumulative fatigue gives the sour taste threshold influence in the 7° Head-down tilt

Miwako Kato1, Yasuhiro Itoh2, Jun Shimizu3, Shinobu Naga2, Shunji Nagaoka2

1Graduate School of psychology Studies, Aichi Shukutoku University
2Fujita Health University Graduate School of Health Sciences
3Faculty of Communication Studies, Aichi Shukutoku University

【はじめに】 われわれはこれまで,足を宙に浮かして座るなどの姿勢により酸味閾値に変化が生じるという報告をしてきた。しかしながら,酸味閾値には気分の影響も認められたので,閾値に影響したのが血行動態によるものか,気分の変化によるものかを同定することができなかった。そこで今回は,7° HDTを用いて血行動態が変化した状態で,気分のちがいが酸味の感受性におよぼす影響を詳しく検討した。
 【方法】 実験参加者: 実験には,健常な大学生27名(女性24名,男性3名。平均年齢21.0±1.5歳)が参加した。実験参加者には予め,蓄積的疲労兆候調査(以下CFSIと略す)を実施した。得られた結果から,実験参加者の平均得点(223.2点)を基に,実験参加者を2群に分けた。すなわち,CFSI得点が平均値より高く,疲労感の強い人たちを「疲労群」,平均値に満たない疲労の訴えの少ない人たちを「対照群」と定義した。
 手続き: 両群共に,可変式ベッドの上で20分間の座位安静の後に,味覚試験,唾液採取および気分評定(快適感・覚醒感)をおこなった。その後,仰臥へ移行し,7°HDTの状態を20分間保った。20分後,その姿勢のままで味覚試験,唾液採取および気分評定を座位安静時と同様におこなった。得られた唾液からは,コルチゾール濃度を測定した。また,実験の間心電図を測定した。味覚試験は,基本5味の内の酸味を取り上げ,加藤・伊藤の方法(2007)に準じた。 参加者がつけた濃度順位と実際の濃度順位の相関係数を味覚得点とした。コルチゾール濃度は,酵素免疫抗体法にて測定・定量した。得られた心電図からは,自己相関−フーリエ変換法で心拍パワースペクトルを得て,高周波成分値(HF)と低周波成分との比(LF/HF)を算出した。
 【結果と考察】 各測度に関してそれぞれ,疲労要因(疲労群・対照群)と姿勢要因(座位・HDT)の2要因混合分散分析をおこなった。味覚試験において,疲労要因と姿勢要因の交互作用が認められ{Fs (1, 21)=5.47, p<0.05},その後の検定で,疲労群はHDTで座位安静時よりも酸味の感受性が有意に高くなった。さらに,疲労群はHDT時に,対照群に比して有意に酸味感受性が高いことが明らかとなった。また,コルチゾール濃度{F(1, 24)=5.51, p<0.05}と覚醒感 {F(1, 26)=13.55, p<0.01}に関しては,それぞれ姿勢要因の有意な主効果が認められた。すなわち,HDT時に,有意に高値を示した。快適感では,疲労要因に有意な主効果が認められ,疲労群は対照群に比して,実験を通じて快適感が低いことが明らかとなった。これらの結果が示唆することは,酸味の感受性には,血行動態の変化だけでなく,気分の変化や覚醒感が大きく影響すると言うことである。