宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 160, 2008

一般演題

46. 肺気量の体位依存性に関する予備的研究

中村 文香,伊藤 康宏,山崎 将生,長岡 俊治

藤田保健衛生大学 医療科学部 生理学教室

A preliminary study on the posture dependency of pulmonary functions

Ayaka Nakamura, Yasuhiro Itoh, Masao Yamasaki, Shunji Nagaoka

Department of Physiology, Fujita Health University School of Health Sciences, Aichi 470-1192, Japan

【はじめに】 体位による肺気量の変化は1970年代に多くの研究がなされ,重力に影響されることが示されている。近年多くの症例が見出されている睡眠時無呼吸症候群のうち,特に閉塞型は,睡眠時に繰り返して起こる上気道の閉塞と,それに伴う低酸素血症が基本的な病態である。その原因の一つに上気道の解剖学的,機能学的異常が指摘されており,実際に閉塞型無呼吸を呈した症例では,覚醒時においても咽頭断面積が減少することが示唆されている。近年,閉塞型の疾患防止への取り組みとして姿勢や体位の改善が注目されている。本研究では体位変化,特に体傾斜角が上気道閉塞や咽頭断面積の減少に及ぼす影響を調べることを目的としており,将来的には睡眠時無呼吸の予防のための臨床研究となることを期待している。
 【方法】 平均年齢21.3±0.5歳,身長158.9±5.8 cm,体表面積1.51±0.12 m2,BMI 20.2±1.7の女性12名を対象とし,立位と仰臥位それぞれの肺気量と気道抵抗を測定した。立位の状態を覚醒時体位とし,仰臥位を睡眠時体位とした。体傾斜は角度可変式ベッドを用い,30° Head up tilt (HUT),7° Head down tilt (HDT),30° HDTさらに睡眠時の別体位として7° HDT腹臥位でも測定を行った。肺気量の測定は気流速度に影響されない有水式のベネディクト・ロス型スパイロメーターを用いて全肺気量(TLC),肺活量(VC),最大吸気量(IC),一回換気量(TV),予備呼気量(ERV),残気量(RV)を求め,ヘリウム希釈法により機能的残気量 (FRC)を測定した。気道抵抗はCHEST SPIROMETER HI-801を用い気流阻止法にて,呼気と吸気それぞれの安静呼吸における抵抗を測定した。
 【結果と考察】 体位を変えることにより,腹腔臓器へ作用する重力方向が変わるため,HDTでは胸郭,横隔膜,腹腔臓器の頭側変位ならびに血液の胸郭内への移動によりTLCは減少する。また,FRCとERVの著しい減少,ICの増加がみられる。一方,コンプライアンスは加齢により肺の弾性収縮能が低下するため増大し,若人の肺と比較し加齢肺では体位変化での影響を受けやすいことが示されている(J MEAD et al. J. Applied. Physiol., 1970)。このため,クロージングボリューム(CV)は加齢に伴い仰臥位で増加しやすく,20歳前後の若者では体位による変化はみられない(D.S. McCARTHY et al. The American J. Medicine, 1972)。安静呼吸時において,ERVは常にCVより大きいので末梢気道の閉塞は起こらない。しかし,立位時から30° HDTへと頭部を倒していくに伴いERVは有意に低下するためFRCレベルとCVレベルが近づき末梢気道の閉塞が起こりやすくなることが示唆された。立位時から30° HDTへと頭部を倒していくに伴い吸気時気道抵抗は低下し,かつ吸気時気道抵抗とFRC/TLCの間に逆相関が認められた。上気道の開存性の低下の要因の一つに,体傾斜角度に依存した胸郭内圧変化の影響が示唆された。
 睡眠時では呼吸補助筋の活動性が低下するため,体位変化によるFRCとERVの減少および上気道の開存性の低下をより来すかもしれない。