宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 151, 2008

一般演題

37. FAD (Flight After Diving)で自然気胸を再発した女性ダイバー

大岩 弘典1,2,大野 剛2,稲垣 智也3,深井 隆太3,4

1日本大学医学部衛生学・宇宙医学
2(医)陽光会・南あたみ第一病院
3順天堂大学医学部付属静岡病院呼吸器外科
4獨協医科大学越谷病院心臓血管外科・呼吸器外科

A Female Diver who recurred Spontaneous Pneumothorax by FAD (Flight After Diving)

Hiromichi Oiwa1,2, Tsuyoshi Ohno2, Tomoya Inagaki3, Ryuta Fukai3,4

1Dept. Hygiene & Space Med., Nihon Univ. School of Med.
2Divers Clinic, Minami Atami Daiichi Hosp.
3Dept. Respiratory Surgery, Juntendo Univ. Shizuoka Hosp.
4Dept. Thoracic-Cardiovascular Surgery. Dokkyo Med. Univ., Koshigaya Hosp.

〔目的〕 女性ダイバーの自然気胸(SPT)について検証し,併せて月経随伴性気胸(Catamenial SPT)既往を疑うエキスパートダイバーの潜水身体適性を検証する。 〔背景〕 多くの報告からSPTの発症率の男女比は7 : 1ほど,女性は10万人に当たり2〜5とされる。男性SPT既往ダイバーは比較的多く,彼らの潜水身体適性については常に論議されてきた。女性ダイバーのCatamenial SPT (CPT)は稀であるが,レジャーダイバーに占める女性の割合は6割を超えるので慎重な検討が求められる。CPT既往女性ダイバー(可能性を否定できない人を含む)の潜水適性の可否は過去行われていない。 〔対象〕 29歳女性ダイビングインストラクター,平成20年1月に左鎖骨部痛で静岡県東部の病院を受診,左上肺のSPTと診断され保存療法が選択された。受傷数日後に南あたみ第一病院に受診,CT所見で左S1+S2に肺虚脱像が見られたので,順大静岡病院呼吸器外科に転院,以後月一回の経過観察を行った。受傷後3ヶ月(4月)時点で左肺の虚脱像は消失したので,自己判断で6月からダイビングに復帰した。6月下旬に沖縄ダイビングツアーに参加,30日に空路帰京したが,空港到着後に左鎖骨部痛で順大静岡病院受診,再発SPTの診断で胸腔ドレナージ施行後,胸腔鏡手術を実施,臓側胸膜が白色化(炎症性胸膜肥厚)した気漏部位と思われた肺尖部を吸収性シートで被覆した。8月時点で肺虚脱は認めない。 〔結果〕 CPTを疑う症例であったが,初回及び再発時とも発症は生理周期に関係無く,またEndometoriosis等も否定されている。内視鏡所見で,臓側胸膜及び横隔膜にBlue& Red Cherry Spot及びbullaは見当たらなかった。 〔考察〕 CPT 症例の報告は80年代後半から増加している。通常XPで発見できるのは1〜2% とされるが,小さなSPTは自覚症状が乏しく,数日で消失するので,SPTはより普通の疾病と論じられている。SPTは再発率が大,初回から2回目は20〜50%,2回目から3回目は62%,4回目は83% という(USA Aeromed. Guideline)。CPTは女性のSPTの2.8〜5.6%(Carter 1990),最近はCPTの増加が顕著(Murat & Akai 2002)という。通常,生理開始から24〜72時間で起こる,CPTの多くは右肺側,少数だが左肺側例もある。endometoriosisに伴う異所性移植に起因するとされるが,期間にこだわらない場合がある。SPTの再発率は男性より女性が大。特に,CPTでは著しい。女性ダイバー人口の増加: 喫煙,子宮内膜症,避妊・OC薬服用者には注意が必要となっている。臓側胸膜のendometriaは患者の3分の1にしか確認されなかったという報告もある。 〔まとめ〕 本症例はCPTに特有な臨床所見は皆無であったが,SPT発症に起因するbulla,bleb及びcystも見当たらない。肺尖部の気漏部位と思われる炎症性胸膜肥厚がendometoriosisと関係が有ったかどうかは不明であったが,CPTとの関係を否定できる根拠もない。レジャーダイビングにエントリーする女性ダイバーは6割を超え,彼女らの年齢層は20〜50歳台までと幅広いため,RSTC(ダイバー健康申告書)による問診に注意が必要かも知れない。ハイリスクのダイバーのみならず,フライトアテンダントについては,初回SPT既往後に内視鏡による外科的処置が必要である。ダイバーの場合,外科的処置後3ヶ月で肺虚脱を認めず,且つ肺機能検査でFEV1.0が80% 以上であれば,エキスパートダイバーに限り潜水可と判断してよいというのが国際的コンセンサスとされる。