宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 150, 2008

一般演題

36. 日本発着航空路線で受ける宇宙線被ばく線量の再評価

保田 浩志,矢島 千秋,米原 英典

独立行政法人放射線医学総合研究所・放射線防護研究センター

Reassessment of Cosmic Radiation Doses for Commercial Air Flights from/to Japan

Hiroshi Yasuda, Kazuaki Yajima, Hidenori Yonehara

Research Center for Radiation Protection, National Institute of Radiological Sciences

1. 背景 平成18(2006)年に国(文部科学省放射線審議会)が策定したガイドラインに沿って,本邦航空会社より2007年度より乗務員の宇宙線被ばく管理を開始した。放医研は専門家の立場からその管理業務を支援しており,航空乗務で受ける宇宙線被ばく線量(以下「航路線量」という。)の算定に協力している。航路線量の計算においては,国際放射線防護委員会(ICRP)が2007年に勧告した新しい放射線防護体系のうち,改訂された放射線荷重係数(wR)の値をいち早く計算に取り入れている。新しい体系では,陽子のwR 値が5から2に,中性子についても全体に値が小さくなる連続関数でwR 値が定義された。民間航空機の巡航高度(9〜12 km)では,中性子と陽子の被ばく線量に対する占める寄与割合が大きいため,今回のwR 値の変更は乗務員等の被ばく線量評価に相当の影響をもたらすと予想される。本報では,その影響について定量的に考察した結果を示す。
 2. 計算方法 大気圏に入射する宇宙線に影響を与える地磁気強度分布は,Bern大学で開発されたGEANT4ツールのMAGNETOCOSMICSコードを使用してデータベース化した。大気中の宇宙線強度は2007年に原子力機構が中心となって放医研と共同で開発した解析モデルPARMAを採用し,これらを組み入れた独自の航路線量計算プログラムJISCARD EXを開発した。そして,日本発着の主要な航空路線約200路線について,新しいwR 値と従前(1990年勧告)のwR 値をそれぞれ用いてJISCARD EXにより航路線量値を計算,結果を比較した。旧くから知られている米国航空連邦局FAAで開発された航路線量計算用プログラムCARI-6による計算値との比較も行った。
 3. 結果と考察 2007年勧告で改訂されたwR 値を用いて航路線量(実効線量: 確率的影響の尺度となる防護のための量)を計算した場合,従前と比べて約25% 小さい値が得られた。路線ごとの差(割合で観た変化)はわずかで,高緯度の飛行時間の長い路線では減少幅が若干大きくなる傾向が認められた。CARI-6との比較では,航路線量は20〜50% 小さくなり,平均では約30% の低下を示した。なお,JISCARD EXで計算された実効線量は,1 cm周辺線量当量(放射線を取扱う事業所等で用いられる管理のための量)よりも系統的に小さくなることが確認された。
 今後,放医研では,新しく体系に基づいて再評価した航路線量の値をデータベース化し,インターネット等を利用して広く社会へ提供していく予定である。