宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 148, 2008

一般演題

34. 航空機乗組員における動脈硬化性疾患のリスクファクターについて

各務 志野,福本 正勝,津久井 一平

航空医学研究センター

The review of risk factors of cardiovascular diseases in Japanese pilots

Shino Kagami MD., Masakatsu Fukumoto, MD., PhD., Ippei Tsukui MD., PhD.

Japan Aeromedical Research Center

心筋梗塞,脳卒中をはじめとする動脈硬化性疾患は,インキャパシテーションの原因となりうる疾患である。これらの疾患のリスクファクターとしては,男性,加齢,喫煙のほか,高血圧,脂質代謝異常,糖尿病などが挙げられる。定期運送用航空機を運航する航空機乗組員のほとんどが男性であり,加齢は避けがたい現象であることから,動脈硬化性疾患の予防には介入可能なリスクファクターの適切なコントロールが重要といえる。本検討では,当センターで航空身体検査を行った航空機乗組員を対象に,高血圧,脂質代謝異常,糖尿病の現状について検討を行った。
 航空身体検査データベースから,2007年4月から2008年3月までに航空身体検査を受検した3,780名の航空機乗組員について,高血圧,脂質代謝異常,糖尿病の有無,治療の有無などのデータを収集し,統計学的検討を行った。3,780例中140例に高血圧を認め,254例が脂質代謝異常であった。糖尿病は89例であった。高血圧の92.9% が内服治療を受けていたのに対し,脂質代謝異常では23.6%,糖尿病では9.6% にとどまった。また,いずれの疾患も年齢が上がるにつれて有病率が上昇したが,高血圧と糖尿病は50歳以上で有病率が上昇したのに対し,高脂血症では40歳以上で上昇がみられた。
 日本では,欧米に比して冠動脈疾患よりも脳卒中の発生頻度が高いことが知られており,特に高血圧の管理はその一次予防において非常に重要である。しかしながら内服加療中の高血圧の34例(26.2%)が収縮期血圧140 mmHg以上,または拡張期血圧90 mmHg以上であり,高脂血症で加療中の例についても15例(25%)がLDL-C 140 mg/dlと,コントロールは十分とはいえなかった。
 航空身体検査基準は,航空業務を安全に行うことができると思われる最低限の健康状態が目標とされている。つまり,運航乗務員の健康状態がその先長く良好に保持されることは目的としていない。しかしながら,incapacitationを予防し安全な運航を目指すためには,日々の健康管理が非常に重要であり,その重要性がさらに強く認識される必要があると考えられた。