宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 147, 2008

一般演題

33. 航空機内におけるAED使用例

牧 信子,沼田 美和子,大川 康彦,松永 直樹,門倉 真人,土方 康義,林 弘子,櫻田 秀樹,
岡部 英明,飛鳥田 一朗,加地 正伸

鞄本航空インタ−ナショナル

AED case study on board the aircraft

Nobuko Maki, Miwako Numata, Yasuhiko Okawa, Naoki Matsunaga, Makoto Kadokura, Yasuyoshi Hijikata, Hiroko Hayashi, Hideki Sakurada, Hideaki Okabe, Ichiro Asukata, Masanobu Kaji

Japan Airlines International Co., Ltd.

緒言: 当社では2001年10月にAEDを国際線航空機内に搭載した。2003年には日本国内でもAEDが一般に解禁され,公共施設等に広く設置されるようになり,各地の博覧会やスポーツ大会,学校等でAEDが使用され,救命に成功した例がたびたび報道されている。当社では,2007年11月に国際線の機内で,心肺停止となり,AED を使用し救命された例が最初の救命例と思われた。この最初の救命例に至る AED搭載開始以降7年間に機内でAEDを使用した35例の機内での状況を検討した。
 症例: 68歳男性。ホノルル発成田行きの機内で搭乗後に胸痛を訴えたのち意識消失。AEDを装着し電気ショックを施行,CPRを続け25分後に体動を認め,35分後に声を発しCPR中止。会話可能となったが,3時間後再び意識消失,再度電気ショックを施行。すぐに意識は回復し,その後酸素吸入を行ないながら着陸し,救急隊に引き継いだ。機内ではドクターコールに看護師2名の申し出があり,客室乗務員が協力して対応した。AEDの記録を解析し,1回目の放電で除細動されていたことを確認したが,その後,本人から回復し退院したと連絡があり,救命例と明らかになった。
 機内でAEDを使用した症例: 2001年10月より2008年3月までに機内で心肺停止と判断されAEDの電極パッドを貼った傷病者は35例であった。23例では放電の指示はなく,12例は電気ショックが行なわれた。国際線27例,国内線8例であった。意識消失を発見された場所は,自席22例,通路10例,トイレ3例だった。AEDを使用した時期は離陸前が3例,上昇中が9例,水平飛行中が17例,下降中が3例,降機中が7例であった。機内で既往歴の明らかになった28例中9例は心・血管系疾患,8例は既往歴無し,呼吸器系疾患4例,悪性腫瘍3例,中枢神経系疾患2例,糖尿病と肝硬変が1例ずつであった。機内でドクターコールに対する医療者の援助の状況は,医師の申し出が21例,看護師のみが10例,その他1例,申し出無し2例であった。知りえた転帰は生存10例,死亡20例,5例は不明だった。また,航行への影響は緊急着陸7例,出発空港引き返し2例,離陸前にターミナルに引き返し3例であった。放電しなかった23例中死亡11例であったが,悪性腫瘍3例,呼吸器疾患2例,肝硬変1例と既存の疾患による死亡と思われた。一方,放電した12例では,2例生存し,1例は発表例,もう1例は不整脈であった。
 まとめ: 航行中の機内でAEDを使用し救命された国内最初の例を経験したので,これまでに航空機内で心肺停止と判断されAEDの電極パッドを装着した35例の機内での状況を検討した。23例は電気ショックの適応はなく,12例は電気ショックが行なわれたが,転帰に差は認められなかった。