宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 146, 2008

一般演題

32. 航空機内における急病人発生状況と機内搭載救急医薬品及び医療用具の内容見直しに関する提言

沼田 美和子1,島田 敏樹2,五味 秀穂3,加地 正伸1

1(株)日本航空インターナショナル 健康管理室
2全日本空輸(株) 勤労部 東京健康管理センター
3全日本空輸(株) 乗員健康管理部 東京乗員健康管理センター

Recent Study On In-flight Emergency and Suggestion for Enhancing the In-flight Medical kits

Miwako Numata1, Toshiki Shimada2, Hideho Gomi3, Masanobu Kaji1

1Medical Services, Japan Airlines International Co., Ltd
2Tokyo Health Services, All Nippon Airways Co., LTD
3Flight Crew Medical Administration Tokyo Office, All Nippon Airways Co., LTD

【背景】 航空機には,平成12年度に制定された運輸省航空局からの通達,“救急の用に供する医薬品および医療用具について” に沿うように救急用医薬品が搭載されている。
 【目的】 現在航空機に搭載されている医療用品の医学的妥当性を検証する。
 【方法】 JALIおよびANAが2001年度から2006年度までに提出された傷病人発生記録を用い,傷病発生数,転帰,傷病の種類,医療従事者からの援助数,医薬品の使用回数について検討した。
 【結果】 観察期間に発生した傷病者数は,国際線(I),国内線(D),総数(A)は各々2,611例,1,612例,4,223例であった。傷病者のうち救急搬送が必要だった傷病者数はI 345例,D 616例,A 961例,機内死亡はI 16例,D 3例,A 19例だった。傷病の種類上位は,I,D,Aいずれも意識障害,気分不快,呼吸困難であった。医師の援助が必要としたのはI 1,573例,D 893例,A 2,466例,うち,医師および/または看護師から援助を得られたのはI 89.1%,D 87.1%,A 88.4% であった。救急用医薬品が使用されたのはI 420例,D 117例,I 537例であった。使用された医薬品数は上位より,点滴溶液(I 180例,D 23例),5% ブドウ糖液(I 93例,D 56例),スコポラミン(I 59例,D 3例),ジアゼパム(I 36例,D 14例),ペンタゾシン(I 35例,D 10例),ニトログリセリン(I 22例,I 7例),エピネフリン(I 15例,D 9例),血糖測定器(I 22例,D 1例),ネラトンカテーテル(I 15例,D 0例)であった。リドカイン,フロセミド,ノルアドレナリンは全く使用されなかった。
 【考察】 リドカイン,フロセミド,ノルアドレナリンが全く使用されなかった背景には機内での救急医療行為には制限があることが考えられる。血糖測定器,ネラトンカテーテルは糖尿病有病率の上昇,高齢化が進む社会背景を勘案した場合,使用頻度は今後も増加すると考えられた。
 【結語】
 (1) 救急医薬品などの内容は概ね妥当と考えられた。
 (2) しかしながら,医療現場の実態に合わないもの,運用に困難をきたすものがあるため,一部の内容の改訂が必要と考えられる。