宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 145, 2008

一般演題

31. 機内搭載医薬品および医療器具についての文献的検討

各務 志野,福本 正勝,津久井 一平

航空医学研究センター

The literature review of in-flight medical incidents and medical kit

Shino Kagami MD., Masakatsu Fukumoto, MD. PhD., Ippei Tsukui MD. PhD.

Japan Aeromedical Research Center

航空機の乗客数は年々増加してきており,世界観光機関によれば,1995年から2010年の間に,長距離便の乗客は約80%増加することが予測されている。また,航空機の大型化に伴って1回の飛行時間が長くなってきていることや,高齢化の影響をうけて,最近では乗客に占める高齢者の割合も少なくないことから,機内発生傷病の内容や数が変化する可能性がある。また,機内搭載医薬品および医療器具については,国際民間航空機関(ICAO)の勧告に基づいて,航空局長通達として国によって定められている。近年,ICAOが勧告の見直しを行い,近く改訂が見込まれることなどから,これまでの機内発生傷病についての報告を検討した。
 機内発生傷病の頻度は,乗客100万人に対して1例とするものから29.8例とするものまで,報告によって異なっている。その理由としては,機内で傷病が発生した場合,報告は義務付けられておらず,報告する傷病の程度や報告される内容が様々であることが考えられる。しかし,いずれの報告においても,原因となった症状としては意識消失発作や胸痛,胃腸疾患などが大部分を占めていた。死亡にいたる例は非常にまれであり,乗客100万人に対して0.01〜0.8例であった。
 アメリカ宇宙航空医学会航空輸送医療委員会では,これらの統計や機内搭載医薬品および医療器具の使用経験などを踏まえ,2007年に新たに勧告を出している。その中には吸入用の気管支拡張剤の搭載や,水銀ではない体温計の搭載などが盛り込まれている。また,2007年のICAO Annex 6改訂案では,搭載が望まれる医薬品や医療器具についてより具体的な内容が記載されたほか,Universal Precaution Kitとして,医療者や客室乗務員を感染から守り,さらなる感染拡大を防ぐ目的で,ディスポーザブルマスクや手袋などの搭載が勧められている。
 機内発生傷病は比較的まれであることや,旅客機は「空飛ぶ救急室」ではないことは明確に認識されるべきである。適切な医薬品および医療器具を機内に搭載するためには,機内発生傷病や機内搭載医薬品の使用状況の現状を把握し,適宜改訂していくことが必要であると考えられた。