宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 144, 2008

一般演題

30. 耐G訓練により誘発された頻脈性不整脈に対する高周波カテーテルアブレーション治療の経験

宮川 貴史1,2,久田 哲也1,2,辻本 哲也2,3,前川 孝一1,辻本 由希子1,酒井 正雄1,緒方 克彦4
ヌ田 成雄1

1航空医学実験隊
2防衛医科大学校内科学第1
3小松基地衛生隊
4防衛医科大学校幹事

Radio-frequency Catheter Ablation for Tachyarrhythmia during high-Gz Training

Takashi Miyagawa1,2, Tetsuya Hisada1,2, Tetsuya Tsujimoto2,3, Kouichi Maekawa1, Yukiko Tsujimoto1,
Masao Sakai1, Katsuhiko Ogata4, Naruo Kuwada1

1Aeromedical Laboratory,
2Department of Internal Medicine 1, National Defense Medical College
3Medical Squadron, Komatsu Air Base
4Vice-president, National Defense Medical College

近年,電気生理学的検査(EPS)及び高周波カテーテルアブレーション(RFCA)が開発実用され,不整脈に対する診断,治療法が大きく変化してきた。従来,航空自衛隊では耐G訓練中に頻脈性不整脈が誘発された場合,訓練中止となり航空業務に復帰できないこともあった。しかし,RFCAにより不整脈が根治できるようになるにつれ,航空業務に復帰できる症例もでてきた。現在,航空自衛隊はF-2,F-15,F-4の高機動航空機を保有している。これら高機動航空機の操縦士には6 G以上,特にF-2では最大9 Gまでかかるとされている。そのため我々は,戦闘機操縦前の訓練操縦士に対して耐G訓練を実施している。高G環境にさらされることで心血管系にも負担が生じ,耐G訓練中に徐脈性不整脈や頻脈性不整脈が誘発され,意識消失の原因となることも過去に報告してきた。さらに,血行動態に影響を及ぼす不整脈,あるいは血行動態に影響を及ぼす可能性のある不整脈を認めた場合には訓練を中止するよう基準を作成してきた。そこでEPS及びRFCAを考慮した対処要領を作成し操縦士としての適性,そして戦闘機要員としての適性について医学適性審査を進めてきた。
 本研究は,平成11〜19年度の間で頻脈性不整脈により耐G訓練を中止した22例についてEPS及びRFCAを導入し,治療経過,転帰についての調査,解析を行った。頻脈性不整脈の22例中20例でEPSを実施し,残る1例は検査拒否,1例は心筋炎によりEPSを実施しなかった。EPSの結果,心房粗動が4例,心房細動が6例,心房頻拍が3例,潜在性WPW症候群が2例,房室結節性回帰性頻拍が4例と診断された(心房粗動と心房細動の合併例1例,心房粗動と房室結節性回帰性頻拍の合併例1例,心房頻拍と房室結節性回帰性頻拍の合併例が1例)。また,4例ではEPSで病的回路を同定することはできなかった。EPSを行った20例中15例はRFCAにより根治し,戦闘機要員として復帰した。RFCAは,頻脈性不整脈発症により耐G訓練を中止した訓練操縦士の多くを戦闘機要員として復帰させ得ることが示唆された。