宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 143, 2008

一般演題

29. 航空自衛隊の医学適性審査における循環器疾患の取り扱いについて

久田 哲也1,2,宮川 貴史1,2,辻本 哲也2,3,前川 孝一1,辻本 由希子1,武井 英理子2,藤田 真敬2
ヌ田 成雄1,緒方 克彦4,酒井 正雄1

1航空医学実験隊
2防衛医科大学校
3小松基地衛生隊
4防衛医科大学校幹事

Waivers for Cardiovascular Diseases in Japan Air Self-Defense Force

Tetsuya Hisada1,2, Takashi Miyagawa1,2, Tetsuya Tsujimoto2,3, Kouichi Maekawa1, Yukiko Tsujimoto1,
Eriko Takei2, Masanori Fujita2, Naruo Kuwada1, Katsuhiko Ogata4, Masao Sakai1

1Japan Air Self-Defense Force Aeromedical Laboratory
2National Defense Medical College
3Medical Squadron, Komatsu Air Base
4Vice President, National Defense Medical College

【背景・目的】 航空自衛隊の航空業務従事者が航空業務の不合格疾患に罹患すると,航空医学実験隊において医学適性審査(ウェーバー審査)を実施して,航空業務の可否について判定を行う。循環器疾患に対する診断,治療は,冠動脈疾患や不整脈に対するカテーテル治療など近年急速に進歩してきた。従って,これらの進歩に伴い,医学適性審査の審議,審査が複雑化してきた。本研究は現在の医学適性審査の評価及び改善点の抽出を行うために実施した。 【方法】 1980年から2007年に航空医学実験隊で取り扱った循環器疾患全95例について,航空自衛隊及び米空軍のウェーバー審査会を担当する循環器専門医師で,米空軍の最新のウェーバーガイドを用いて再判定を行い,現在の航空自衛隊における循環器疾患の取り扱いについての検証を行った。 【結果】 航空自衛隊と米空軍の審査における循環器疾患の取り扱いは,大部分で共通していることが明らかになった。ただし次の点では違いを認めた。(1)航空自衛隊は既に狭心症に対する冠血管再建術を受けた操縦士について既に2例を航空業務に復帰させてきていたが,米空軍は操縦士には冠血管再建術後の航空業務復帰を許可していなかった。(2)米空軍は器質疾患を有しない心房細動においては,βブロッカーのアテノロールによる心拍数コントロールの治療による航空業務を認めているが,航空自衛隊ではこのような症例では内服なしで洞調律に戻っている場合のみの航空業務の復帰を認めてきた。従ってカテーテルアブレーション治療の適応症例が多いと思われた。(3)米空軍は,11連発以下4エピソード以下の非持続性心室頻拍には制限をつけずに航空業務復帰を許可しているが,日本では複座機などの制限をつけた復帰を許可していた。(4)米空軍では,肥大型心筋症の航空業務復帰を許可していなかったが,航空自衛隊は非閉塞型の心尖部肥大型心筋症の航空業務への復帰を許可していた。(5)WPW症候群及び房室結節回帰性頻拍に対する不整脈のアブレーション治療後のフォローアップにおいては違いを認めた。 【結論】 本研究により,今後の航空自衛隊の循環器疾患に対する医学適性審査(ウェーバー審査)を実施していく上で参考となる重要な知見を得ることができた。