宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 142, 2008

一般演題

28. 操縦士の機能喪失と対策

白石 豊樹

日本航空機操縦士協会 専務理事

The Phsical Incapacitation of the pilot and the treatment

Toyoki Shiraishi

Japan Aircraft Pilot Association

航空機の運航は,施設管理と運航管理(整備,飛行)操縦士の技量・健康管理に支えられて成り立っている。各コンテンツは,安全基準への影響及び経済的なバランスを想定した運用により適切な水準を担保している。施設の不具合に対しては情報の周知を,機材の故障には最低許容基準を,操縦に関しては機材故障時の方式をマニュアル化する,といった対処方法がそれぞれ確立されている。
 一方,操縦士の機能喪失に対しては「機能喪失時の運航方式」が設定されている。そのために航空機の運航は,二人の操縦士が担当するTWO MEN CONCEPTとなっており,操縦士の機能喪失時には操縦の引継ぎ,援助の確保,着陸までの飛行が自動的に行われることとなっている。CRM (Crew Resorce Management)と呼ばれるこの考え方は,過去数十年にわたる多くの事故・インシデントに基づき確立されてきている。特に近年,ICAO,FAAを含め60歳以上の加齢操縦士が漸増してきた状況では,より具体的に訓練を行う必要が出てきた。
 そこで全日空を中心とするスターアライアンスグループは,平成20年度より「操縦実施者の機能喪失」に特化した定期訓練を始めた。シミュレーターを使ったこの訓練は,かつてより行われていたが,より「操縦実施者の機能喪失」に特化し,また着陸直前あるいは離陸直後の時間的余裕がない厳しい条件下での訓練が,シミュレーターを使用し繰り返し実施されている。
 さらに,JAPAの医学委員会よりのアドバイスにより,より実際に近い形でのPhysical Incapacitationを再現し,シミュレーターでの訓練に応用する試みも開始されている。
 今回,訓練の内容と重要性を提示することで航空機の安全性が確立されていることを報告するとともに,より一層の安全に対する今後の試みを報告する。