宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 140, 2008

一般演題

26. 加齢乗員付加検査導入後の当社の経過

五味 秀穂1,2,田村 忠司1,3

1全日空乗員健康管理部東京乗員健康管理センター
2東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科
3東京慈恵会医科大学循環器内科

Progress of aged pilot system in ANA

Hideho Gomi, Tadashi Tamura

Flight Crew Medical Administration Tokyo Office, All Nippon Airways

航空機運航乗務員の需要増及び団塊の世代の大量退職に対し,日本では1991年から加齢乗員制度をスタートさせた。当初60歳から63歳に引き上げられた年齢制限は,その後2004年には65歳まで引き上げられ,60歳時に付加される検査も内容の修正が加えられた。現在60歳時に一律に医師問診・安静時心電図・ホルター心電図・心エコー・トレッドミル負荷心電図・呼吸機能検査・頭部MRI・脂質の採血の8項目が指定されている。更に63歳時にも心エコーと呼吸機能検査以外の6項目を行わなくてはならない。世界で先駆者となった60歳以上のパイロット制度だが,今や他国でも制度が見直され,60歳までの航空身体検査をそのまま65歳まで持ち上げる国々も見られるようになった。
 世界に冠たる加齢運航乗務員が働く国となった日本であるが,今回全日空において2002年から導入した加齢乗員制度の経過を報告し,今後の制度のための参考になればと報告した。
 2002年から2008年10月までで当社では計110名の乗員がこの付加検査を受けた。94名が合格し,16名が不合格となった。合格した乗員のうち6名が特に問題なく無事65歳まで乗務できた。1名は以前罹患した精巣腫瘍が60歳後に再発したが,幸い治療が奏効し再度復帰しており,他の加齢乗員も無事乗務されている。
 またこの合格者のうち28名は,60歳以前に国土交通省航空身体検査証明審査会にて合格を頂いていた乗務員であった。審査会に上がった疾患は内科系が14名と多く,特に循環器疾患で審査を受けた者が10名に上り,カテーテル・アブレーション治療を受けた者が多かった。また悪性疾患で審査会合格を貰った者も10名に上った。
 不合格となった16名のうち4名は再審査を希望せず退職。残り12名は再審査を希望したが結局11名は不合格となった。不合格理由としては脳血管障害と虚血性心疾患が多かった。
 未知の領域であった加齢航空機運航乗務員制度であるが,制度がスタートして10年以上経過し,当社でも100名近くの加齢乗員が誕生し勤務している。幸い身体要件で途中退職された者は現時点で1名もいない。今後日本も世界標準との整合性を取らねばならない事態も予測され,当社の経過がその参考になればと考えている。