宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 138, 2008

一般演題

24. 非侵襲的方法で簡便にストレス状態をモニタリングできる方法の開発

夏野 豊樹1,泉 龍太郎2,井上 夏彦2,小川 芽久美2,山口 喜久1,平柳 要1,岩崎 賢一1,谷島 一嘉3

1日本大学医学部社会医学系衛生学分野
2宇宙航空研究開発機構有人宇宙技術部
3佐野短期大学

Development of a non-invasive stress monitoring system

Toyoki Natsuno1, Ryutarou Izumi2, Natsuhiko Inoue2, Megumi Ogawa2, Nobuhisa Yamaguchi1,
Kaname Hirayanagi1, Kenichi Iwasaki1, Kazuyoshi Yajima3

1Division of Hygiene,Department of Social Scienc, Nihon University School of Medicine
2Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA)
3Sano Sinia College

【目的】 生理機能測定によって得られる生体機能パラメータと,ストレスの主観的評価との対応関係から,各自のニューラルネットワークモデルを構築し,ストレス時の生体機能パラメーターを入力することによって,ストレスによる負担の度合い(ストレイン)を精度よく推定できるシステムを作り上げる。
 【方法】 20〜24歳の健常成人8名を対象に通常環境下において,3段階(易・中・難)の難易度を有する3種類のストレス課題(視覚探索課題・暗算課題・トラッキング課題)を各3分間(計9分間)負荷する実験を行った。安静時と3段階各3種類のストレス課題時に取得された生体機能パラメータ値と,安静時と負荷終了直後に得た主観的ストレス評価値との対応関係より,被験者ごとに最適なニューラルネットワークモデルを構築した。取得する生体機能パラメーター値には,心拍-血圧変動,呼吸数,精神性発汗,瞳孔面積を選択した。主観的ストレス評価値は日本語版NASA-TLXを用い,その評価値としてAdaptive Weighted Workload(AWWL)スコアを用いた。ニューラルネットワークモデルの構築には,入力層10〜12ユニット(各種自律神経機能パラメーター),中間層2ユニット,出力層1ユニット(主観的ストレス評価値)の3階層型で構成し,学習法には誤差逆伝播法を用いた。
 【結果】 構築されたニューラルネットワークモデルにて,ある被験者の推定精度を評価したところ,3課題×3難易度の負荷での平均相関係数は0.977であった。主観的ストレスの推定に際して,BPV-LFが正比例的に最も大きな影響を及ぼし,一方,HRV-HFが反比例的に最も大きな影響を及ぼしていた。また,SweatNVHはストレス推定にほとんど寄与しなかった。
 【考察】 これまでは通常環境の測定に基づいた心循環系の自律神経機能パラメーター値を用いてきたが,宇宙などの特殊環境では異なった挙動を示す可能性がある。今後は様々な状態における生体機能パラメーター値を取得し,できるだけ少ないパラメーターでストレスの度合い(ストレイン)が推定できるように,より推定精度を高めたニューラルネットワークモデルの構築をめざしている。