宇宙航空環境医学 Vol. 45, No. 4, 137, 2008

一般演題

23. あぐら姿勢が一回拍出量に及ぼす影響

小野寺 昇1,吉岡 哲2,関 和俊2,白 優覧1,西村 一樹1

1川崎医療福祉大学
2川崎医療福祉大学大学院

Influence of stroke volume during sitting cross-legged

Sho Onodera1, Akira Yoshioka2, Kazutoshi Seki2, Wooram Baik1, Kazuki Nishimura1

1Kawasaki University of Medical Welfare
2Graduate School, Kawasaki University of Medical Welfare

【背景】 水中座禅は,安定期妊婦の水中運動プログラムである。水中座禅とは,潜水し,プールの底であぐらをかき,止息するプログラムであるが,水中座禅時の著明な生理応答として心拍数の減少が,報告されている(佐々木ら,1993。林ら,1999)。このことには,水の物理的特性による静脈還流量の増大が寄与している。陸上におけるあぐら姿勢(座禅姿勢)時の腹部大静脈横断面積が,椅座位姿勢時と比較して増大する。しかしながら,心拍数に差がないことをすでに明らかにした(第16回日本運動生理学会大会,2008)。腹部大静脈横断面積が増大したということは,下肢からの静脈還流量が増大した,あるいは大静脈の上下方向への伸展の軽減が寄与するものと推察する。しかしながら,あぐら姿勢と座位姿勢では,筋活動量に差がないものと考えるため,下肢からの静脈還流量が増大したとは考えにくく,あぐら姿勢による腹部大静脈横断面積の増大は,血流動態の変化によるものではなく,姿勢変化に伴う大静脈の上下方向への伸展の軽減によるものと考える。あぐら姿勢による腹部大静脈横断面積の増大が,心臓への還流量を増大するものではないという仮説を立て,実験を行った。 【目的】 あぐら姿勢時と椅座位姿勢時の一回拍出量の比較検討を行った。 【方法】 本研究には,6名の健康な成人男性(21±1歳)が参加した。被験者の身体的特性は,身長172.0±7.7 cm,体重63.4±7.4 kg,体脂肪率14.8±3.3% であった。全ての被験者には,実験内容に関する説明を行い,実験前にインフォームドコンセントを実施した。各被験者の座位姿勢時の大動脈血流速度を,超音波ドップラー法を用いて測定した。2.0 MHzインディペンデント探触子を胸骨柄上端部にあて,血流波形が最大かつ明瞭に描出されるようにし,DVDレコーダに取り込んだ後,コンピュータ上で血流速度を算出した。また,超音波エコー法にて上行大動脈の横断面積を測定し,血流速度と大動脈横断面積の積から,一回拍出量を算出した。実験姿勢は椅座位姿勢およびあぐら姿勢の2条件とし,各条件の実施順は,無作為に選定し,実施した。 【結果】 あぐら姿勢時(76.3±11.2 ml)と椅座位姿勢時(72.3±11.6 ml)の一回拍出量に有意な差はみられなかった。この結果は,仮説を支持するものであった。腹部大静脈に貯留された血液は,呼吸などにより心臓への還流量を増大し,一回拍出量および心拍数に影響を及ぼすものと考えられる。陸上においては,座位姿勢時とあぐら姿勢時の一回拍出量と心拍数に差がみられなかったが,水中座禅時の心拍数は減少することが報告されている。これらのことから,水中座禅時の心拍数の減少には,姿勢ではなく,止息や水圧による心臓への静脈還流量の増大が寄与しているものと推察する。今後,さらに検討を行う必要がある。 【まとめ】 あぐら姿勢時と椅座位姿勢時の一回拍出量には違いがないことが明らかになった。